呼吸筋トレーニングについて

呼吸筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training:IMT)は、呼吸リハビリテーションにおいて、全身持久力トレーニングと併用するとより効果的であるとされ、以前から実施されていた。

近年では、心不全患者に対するIMTの有効性が注目されている。

心不全患者では、約30~50%に呼吸筋力低下が合併するとされる。また、呼吸筋力低下は運動耐容能の低下や全死亡と関連するともいわれている。

心不全患者において、なぜ呼吸筋力の低下が起こるのか、また呼吸筋力低下はなぜ運動耐容能低下に関連するのかについて、そのメカニズムを一部紹介する。

心不全患者の呼吸筋力低下が起こるメカニズムは未だ不明な点も多いが、四肢骨格筋力の低下に伴って呼吸筋力も低下するという。

すなわち、四肢骨格筋力の低下と呼吸筋力低下のメカニズムが一部重複しているというものである。心不全患者では、副腎皮質ホルモンや炎症性サイトカインの過剰分泌、蛋白合成異化のアンバランス、ミトコンドリア異常、骨格筋のアポトーシス等が起こる。

また、これらに加えて骨格筋への低灌流や低栄養、活動量の低下等によって四肢骨格筋力の低下が起こる。さらに、右心機能低下の場合は腸管浮腫が起こり、栄養吸収障害や蛋白の漏出が生じる。こうした心不全患者における四肢骨格筋力の低下は、呼吸筋力低下と相関することが認められている。

呼吸筋力低下が運動耐容能低下に関与するメカニズムとしては、Respiratory metaboreflexという考え方がある。

運動時、①呼吸筋の疲労は交感神経を活性化させ、四肢の末梢血管を収縮させる。②四肢骨格筋への血流分配が低下することで、呼吸筋への血流分配を増加させる。③その結果、四肢骨格筋の血流が制限されるため、運動耐容能の低下が起こる。

以上のような、心不全患者で呼吸筋力低下が疑われ、運動耐容能が低下している患者に対して、IMTを実施すると嫌気性代謝閾値(AT)が改善することや、換気効率に影響を与えることが示唆されている。

しかし、IMTは具体的な適応基準やそのプロトコルは、一定の見解が得られていないのが現状である。したがって、従来の心臓リハビリテーションの運動療法を実施した上で、IMTの適応となる患者を評価し、プラスαとしてIMTを導入することが望ましいと考えられる。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・循環認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導士
・サルコペニア・フレイル指導士

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。

今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。

 

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

リハビリマスタースクールでは鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けのセミナーを定期的に開催しております。セミナーの詳細はこちらをご覧ください(株式会社ワークシフトのサイトに移動します)

おすすめの記事