腱板損傷の基礎知識

腱板断裂の評価や治療するにあたり知っておきたい基礎知識を解説する。

 ●腱板損傷の概要

腱板の損傷・断裂が生じる基盤には、加齢による腱板の変性がある。

腱板断裂は完全断裂部分断裂に分類される。

一般的に完全断裂時には手術が推奨され、部分断裂は保存療法が選択されることが多い。

また、40 歳以上では自覚症状に乏しいにもかかわらず腱板断裂がすでに生じている場合(無症候性腱板断裂)が存在している。

逆に40歳未満では症状が強いことが多い。

 外傷断裂
外傷性の腱板断裂は野球、テニス、バレーなどのオーバーヘッドスポーツや上肢で重いものを持ち上げることで生じやすい。棘上筋や棘下筋を過用することで腱板が損傷する。

・変性断裂
加齢とともに腱板が変性し、組織が脆弱化するために生じる。腱板断裂症例において腱板内に特徴的な組織学的変性像を高頻度に認めると報告され、1).膠原線維径の細小化および不整走向,2)粘液変性,3硝子化変,4)軟骨化成,5)石灰化,6)血管増生,7)脂肪浸潤が生じていた1

つまり、腱板は加齢とともに組織学的に変化するため断裂するのは致し方ないとも言える。

 ・保存療法の方法

腱板損傷が生じると肩関節の挙上が困難となる。しかし、保存療法により上肢挙上が可能となる症例も多い。

保存療法で重要となるのが次の4点と考えらえられる2

①急性期ではポジショニング・アームスリングなどで損傷している腱板の保護を徹底し、早期の炎症の緩和を行う。
②肩甲胸郭関節の可動域練習を実施する。
③損傷していない腱板を強化する。
④疼痛を抑制するために鎮痛剤を活用する。

腱板断裂の自然治癒に関しては断裂の重症度の影響を受ける。

完全断裂や広範囲断裂では自然治癒は期待できないため、保存療法を選択する場合は、患者に対して予後の説明が必須となる。

自然治癒が期待される範囲の小さい断裂では、損傷していない腱板の強化や肩甲胸郭関節の機能向上が必須となる。

ただし、一度腱板損傷を受傷した場合、数年かけて徐々に状態が悪化していく可能性が高い3

よって、腱板損傷の保存療法後に疼痛低下、上肢機能が改善しても継続的な検査や肩関節機能に対する運動療法の必要がある。

 ・参考文献
1)橋下卓:腱板断裂における腱変性の病理組織学的検討.肩関節252.p211.2001
2)安江大輔:肩腱板広範囲断裂を呈した症例に対する保存療法の 1 .理学療法とちぎ Vol 6 No2.2016
3)Noah J Quinlan et al. Conservatively Treated Symptomatic Rotator Cuff Tendinopathy May Progress to a Tear. Arthrosc Sports Med Rehabil. 2022 Jun 15;4(4):e1449-e1455.

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

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