心不全診療に関する血中BNPとNT-proBNP値が改訂されました

本稿では、2023年10月に日本心不全学会から発表された『血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版』について、解説させていただこうと思う。

この度のステートメントの主な変更点は、1)BNP/NT-proBNPのカットオフ値、2)BNP/NT-proBNPを用いた心不全管理の2点である。

そもそも血中BNPやNT-proBNPは、心不全の診断、重症度、予後予測を表す指標であり、その測定についてはガイドラインでも強く推奨されている。

本邦においても2013年に日本心不全学会が『血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療の留意点』として発表して以来、臨床の場で広く活用されてきた。

1)BNP/NT-proBNPのカットオフ値における変更点(図)

①心不全の可能性があるBNPのカットオフ値:BNP40pg/mL→35pg/mLへ変更

②BNP100pg/mLに対応するNT-proBNP:NT-proBNP400pg/mL→300pg/mLへ変更

③心不全診断や循環器専門医への紹介基準:BNP100/NTproBNP400pg/mL→BNP35/NT-proBNP125pg/mLへ変更

カットオフ値の変更に伴いBNP/NT-proBNPの診断の基準値も以下の5つに分類されている。

・BNP18.4pg/mL未満、NT-proBNP55pg/mL未満は心不全の可能性は極めて低い。

・BNP18.4~35pg/mL、NT-proBNP55~125pg/mLは心不全の可能性は低く経過観察とする。

・BNP35~100pg/mL、NT-proBNP125~300pg/mLは前心不全~心不全の可能性がある。

・BNP100~200pg/mL、NTproBNP300~900pg/mLは心不全の可能性が高い。

・BNP200pg/mL以上、NT-proBNP900pg/mL以上は高リスク心不全の可能性が高い。

これらカットオフ値が変更された背景には、近年の心不全患者の病態の変化がある。

すなわち、超高齢社会となった我が国において、左室駆出率(LVEF)の低下していない心不全(HFpEF)患者が増加傾向である。

このようなHFpEF患者では、相対的にBNP/NT-proBNPが低値であることが多く、従来の基準ではHEpEF患者を心不全ではないと見逃してしまう恐れがあった。

したがって、BNP/NT-proBNPともにやや下方修正し、前心不全という概念を加えることで、HFpEF患者を含め全心不全患者を早期から発見するねらいがあると考えられる。

2) BNP/NT-proBNPを用いた心不全管理について

①急性心不全では、入院患者では退院時のBNP/NT-proBNP値が入院時の30%以上低下していれば退院後の予後が良好である。

②慢性心不全では、過去のBNP/NT-proBNP値を参考にし、前回よりもBNPが40%以上、NT-proBNPが30%上昇した場合には、心不全の増悪の可能性を考慮する。

『血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版』について、もっと詳細な内容を知りたい方は、日本心不全学会のホームページを参照されたい。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・循環認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導士
・サルコペニア・フレイル指導士

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。

今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。

 

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