パーキンソン病患者に対する転倒予防とは?

■パーキンソン病患者の転倒

パーキンソン病患者の転倒は、前傾姿勢やすくみ現象などの運動症状に加え非運動症状が要因となる。
また、病期の進行に伴いリスクが増大し、在宅生活の継続を困難とする要因となる場合が多い。

また、骨折による安静や転倒を経験したことによる恐怖心は、二次的障害である廃用症候群を来し、さらなる転倒の要因となってしまう。

■どのように転倒を予防していくか?

では、実際どのように転倒を予防していくのか?

今回は、パーキンソン病患者の中でもHoehn and Yahr重症度分類Ⅲの時期における転倒予防について述べる。

パーキンソン病患者のみならず、一般的に転倒予防のためには、運動療法と併行して生活指導や環境整備を行うことが良いとされている。

本稿では生活指導や環境整備に着目して述べていく。

重症度分類Ⅲの時期は、振戦や筋強剛、無動、姿勢保持障害などの様々な運動症状が著明に出現し、バランスや歩行能力が低下する時期である。

独歩移動が不安定となるため、安定性の高いウォーカーや歩行車などを各患者に合わせて選択し指導する必要がある。

特に抑速ブレーキ付き前腕支持型歩行車は、前方への推進力を抑制し、歩行動作の安定性を高めるため、重度な前傾姿勢や突進現象を呈する患者に有用であると考える。

しかし、歩行補助具の導入は、公共交通機関の利用を控えたり生活範囲の狭小化を招くきっかけとなる場合もある。

そのため、理学療法士等のセラピストが患者様とともに実際の生活環境に赴き歩行補助具の選定、指導することの重要性は強調したい。

移動手段の変更により、外来通院でのリハビリテーションの継続が困難となる場合には、介護保険下での送迎サービス付きのリハビリテーションなどに切り替える環境整備等も活動量確保のためには重要となる。

■生活空間に合わせた転倒予防

重症度Ⅲの時期では、在宅内での転倒リスクが増大するため、生活空間に合わせた転倒予防対策も重要となってくる。

特にパーキンソン病の患者の特徴であるオフ時の状態を把握し、トイレや居間をはじめとした生活導線上の転倒予防は重要となってくる。

日本の家屋は廊下幅が狭いため、生活導線上の移動は手すりを設置し伝い歩きで移動することが多い。

手すりは目的に応じて形状を選択するが、パーキンソン病の場合将来的な症状進行により変更が必要となる場合も多く、容易に着脱できるタイプからの導入が推奨される。

たんすやテーブルなどの安定した家具を設置することで代用するのも一つである。

移動で注意しなくてはいけない点がもう一つある。

夜間の移動である。

夜間の移動においては、電気紐の延長リモコン付き電気への変更足元に人感センサー付きライトを設置するなどの工夫により電気を点けるまでに生じる転倒を予防することができる。

また、パーキンソン病患者はわずかな段差でも転倒のリスクが増加することから、重症度Ⅲのタイミングで生活導線上の段差解消を検討していくことも重要となってくる

■最後に

今回はHoehn and Yahr重症度分類Ⅲの時期における転倒予防のポイントをいくつか述べた。

転倒予防だけでなく、パーキンソン病をはじめとした進行性疾患のリハビリテーションは、患者の病状や病態に合わせた対応ができるよう些細な変化も見逃さないことが求められる。

そのため、患者様やその家族と定期的に情報共有できるような体制を整えていくことがとても重要となると考える。

・参考文献
日本理学療法士学会:パーキンソン病理学療法診療ガイドライン.p521-569

投稿者
堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

リハビリマスタースクールでは鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けのセミナーを定期的に開催しております。セミナーの詳細はこちらをご覧ください(株式会社ワークシフトのサイトに移動します)

おすすめの記事