皆様も普段の臨床で運動療法をする機会は多くあると思う。
その時、患者さんから「痛い!」と言われたことはないだろうか?
痛いと言われた時、自信を持って対処することができるだろうか?
昔の私は痛いと言われたら怖くなってしまい、「すみません!じゃあやめておきましょう。」とすぐにその運動は中止してしまっていた。
でも、それが本当に正しいのかどうか、もちろん運動を中止する選択が必要な場合もあるが、どうするのが適切なのか今一度考えてみたいと思う。
運動によって痛みが出現するパターン
運動によって痛みが出現してしまうのはどういう場合だろうか。
大きく分けると以下の2パターンに分けられると思っている。
・運動方法自体が間違っている
・運動の量が適切でない(負荷が強すぎる)
こちらが良かれと思って指導した運動でも正しく実施できなかったり、一見正しくできているように見えても力を入れる場所やタイミングが違うと人によっては痛みが出現する可能性がある。
負荷が強すぎるというのはイメージしやすいかと思う。
負荷が強すぎれば痛みが出現するのも当然である。
運動療法を分解すると、以下のようになる。
・運動療法実施の頻度(週にどれくらい)
・時間(1回どれくらい)
・量(1セット何回、何セットするのか)
・強度(負荷量、重さや抵抗量、どれくらいの可動範囲で動かすのか)
これらはセラピスト側で設定し、本人にとって適切な運動となるようにデザインすることができる。
何となく膝伸展10回とか腹筋10回とかで回数を設定することが多いような印象だが、個人的にはあまりに虚弱な方以外は負荷量が少なすぎる場合が多いと思っている。
初回は分からないかもしれないが、どれくらいの運動量がその人にとって適切なのかセラピストが正しく測らないといけない。
DOMSを考慮
普段の臨床で運動療法を指導する方は、元々運動習慣がなかった方がほとんどだと思う。
そんな方に運動療法を指導すると、いわゆる筋肉痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)が生じることがある。
これは健康な人でも生じるものなので、筋肉痛を異常な痛みと考えずに事前に、あるいは痛みが生じた時にきちんと説明することが大事である。
きちんと説明しないと、悪い痛みだと思って運動を止めてしまったりすることも考えられるので、説明は大事である。
また、セラピスト側もこの辺りの痛みの考え方には注意が必要である。
例えば、膝OAの方に運動療法を指導して痛みが出現した場合。
痛みが出現した、あるいは増強したからといって運動が適切でなかったとか、変形を強めてしまったと考えてしまうことがある。
1回の運動で変形が強くなることはあり得なく、多くは関節内の炎症反応が一時的に強まっただけと考えるのが自然である。
EIHによる疼痛軽減効果
でも、痛みが出たら運動は止めるべきじゃないの?と思うかもしれない。
これは必ずしも正解ではない。
運動には鎮痛効果があり、Exercise-induced hypoalgesia(以下、EIH)と呼ばれている。
これはジョギングやウォーキング、サイクリングなどの有酸素運動、レジスタンストレーニング、等尺性収縮運動など、様々な運動で起こるとされている。
メカニズムとしては、以下のようなことが考えられている。
EIHによって、運動そのものに疼痛を緩和させる効果があるので、運動をしないことが疼痛を出現させたり増強させる要因になることがある。
なので、疼痛が出たらきっぱり運動を止めるのではなく、そういった効果もあると説明し、疼痛自制内の範囲で運動を行うのが良いだろう。
侵害可塑性疼痛に注意
痛みは局所の組織だけで起こるわけではなく、心理・社会的要因によっても増減する。
侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛以外の疼痛を侵害可塑性疼痛と呼ぶ。
例えば、運動すると痛くなってしまうという想いが強い、運動すること自体が怖いなどの運動恐怖がある場合、運動によって痛みが出現すると過剰に反応してしまう恐れがある。
だが、この場合もじゃあ運動はやめましょうとするのではなく、組織に損傷が起こったわけではないということをちゃんと説明することで、運動に対する恐怖を取り除くという視点が大事となる。
他にも、日中家事などで動いていると痛くなるとか、朝は大丈夫だけど夕方くらいになると痛くなるとかの場合、翌日には治っている、少し休めば良くなるのなら、それほど気にせず動いてもらう方が良い。
そこでセラピストが動くことを制限してしまうと、ADLの低下をきたす可能性もあるので、心配するような痛みではないことを説明した上で、動いてもらうようにする。
ただ、あまりにも動きすぎている場合は注意である。
痛みを訴えていても、平気で何時間もぶっ続けで畑作業をしていたり、何千歩、何万歩も歩いている方もいるので、その辺はよく聴取し、本人の身体機能と照らし合わせて考えて助言するようにするべきである。
急性痛に注意
急性期はもちろん、慢性的な経過を辿っていても急性痛が混在している場合はある。
運動によって主訴の痛みが増強する場合は運動は中止し、必要に応じて医師の診察を勧めたりするべきである。
急性痛の場合は、運動によって疼痛が軽減するとは考えにくいので、組織の治癒を妨げないようにしつつ、主訴の痛みが出現しないような運動方法を考える必要がある。
骨折だったり、炎症が強いというのは運動ではどうにもできない。
そういった視点も持ちながら、どんな運動方法が良いか、どれくらいの負荷が良いかを考えないといけない。
まとめ
大事なのは、セラピスト自身が疼痛が何故出現するのか、何故増強するのかをちゃんと理解しておくこと。
そうでないと、痛みの訴えがあっても患者さんが納得できるような説明はできない。
本記事を参考に、痛みが訴えがあっても恐れずに対応できるようにしていただけると幸いである。
参考文献
1.Crombie KM et al : Endocannabinoid and Opioid System Interactions in ExerciseInduced Hypoalgesia. Pain Med 2018; 19:118-23.
2.Taguchi S et al : Increase of M2 macrophages in injured
sciatic nerve by treadmill running may contribute to the relief of neuropathic pain. Pain Res 2015:30:135-47(in Japanese).
3.Bobinski F et al : Interleukin-4 mediates the analgesia produced by low-intensity exercise in mice with neuropathic pain. Pain 2018; 159:437-50.
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。