私たちセラピストは「できるADL」を「しているADL」に変えていくことが目的の一つである。その目的を達成するためにはADLをどのように分析していくのかということが重要になる。
今回は「トイレ動作」について分析していこうと思う。
●トイレ動作の重要性
私はADLの中でも特にトイレ動作を重視している。
なぜならば、ADLの項目の中でも頻度が多いこと、排泄というできる限り他人に関わって欲しくない行為であり、自尊心に大きく影響するからである。
さらに、急性期ではベッドから離れるタイミングとしてトイレがあり、離床という観点からも重要となる。
回復期〜生活期でもトイレ動作が獲得できることで、介助量が減り、自宅を目指すことのできる方やご家族の介助量が減るといったメリットに繋がる。
また体の機能から見ていくと、体内の老廃物(要らなくなったもの)を体外に排出することであり、生物が生きていく上で欠かすことのできない行為である。
身近な例で言うと、便秘の方が体調を崩すというように、体の正常な働きを阻害してしまう原因になりかねない。
このように私たちが何気なく、している行為は生きていく上でも、社会の中で生活していく上でも欠かすことのできないことであり、それを再獲得するということは私たちセラピストに求められていることだと思う。
◇トイレ動作を整理する
トイレ動作を「運動」「動作」「行為」で整理してまとめてみる。
細かい部分は変わってくるかと思うが、正常範囲で考えていくとこのような項目になるかと思われる。
今回は、下衣の上げ下げに着目して必要な要素を抜き出してみた。
このように整理していくことで、「トイレに行く」という行為でどのような要素が必要になるのかということがはっきりする。
なんとなく抜き出すことは可能であるが、それだと抜けが出てしまうので、一度文字にして整理してみることを強くオススメする。
●要素の関係性をまとめる
「運動」の項目で抜き出した要素は関連性を持っており、一つの要素が独立して動作が成り立っているわけではなく、要素と要素は影響し合っている。
これを3つのタイプに分けて整理してみる。
「連続タイプ」「階層タイプ」「展開タイプ」と分類する。
●連続タイプ
連続タイプは時系列で進んでいくことである。
どの要素がどのような順番で動作が成り立っているのかをまとめることができる。
難しく書いてしまったが、私たちが日頃からしている動作観察と同じである。これはどの時に問題が出ているかをはっきりさせることができる(エラーの検出)。
●階層タイプ
階層タイプは上下の関係にあり、下の要素が上の要素に影響を与えている(その逆もある)というまとめ方にもなる。
上の要素を発揮(実行)するためには下の要素が必要だということである。
これは原因の追求やアプローチの順位を決定するために有効になってくる。
●連続タイプ
展開タイプは一つの動作がどのような要素で成り立っているのかをまとめる方法である。
これは動作分析に当たる部分であり、複数の要素が同時に実行されている。
筆者も学生時代や新人の頃はとにかく動作分析が苦手であった。
患者様の動画を撮影させていただき深夜まで動画とにらめっこしていた記憶は忘れない。
どのように分析すればいいのかがわからないためとりあえず動作を繰り返し見ていた。さらに、正常動作に囚われていて、ADLの正常動作をたくさん調べたが出てこなかったという過去もある。
しかし、要素の抽出と関係性を軸にしていくことで、まとめやすいことがわかった。
この分析方法は正解がないため、繰り返し行うことが重要となる。筆者は参考書や文献などで調べることが中心であったので、自身で考えていくこのスタイルに慣れるまで時間がかなりかかった。
正解がないということは裏を返せば、汎用性が高い(応用が効く)ということであるので様々なことに対応できるようになってくる。
エビデンスに基づくリハビリテーションが必要ではあるが、科学の中では研究できていない部分も多くあるので、どの部分にエビデンスを使うのかということもこのように関係性をまとめていくと見えるようになってくる。具体的には「階層タイプ」や「展開タイプ」でエビデンスや知識が必要になってくる。
●トイレ動作を獲得するために必要なこと
筆者の経験だが、運動機能面からみたトイレ動作を自立するためのポイントとして「下衣の上げ下げ」ができるかどうかは重要であると考える。
脳卒中の患者様では運動麻痺などで上肢の操作が難しくなること、バランス障害により立位での動作が難しくなることが自立できない原因であることが多い。
最低限必要な能力は、「安定した立位保持」と「上肢機能」である。
理学療法士でゆえに、歩行や立ち上がりに目が向きがちであるが、トイレ動作なので、トイレ内での動きに対しても着目していく必要がある。
歩行や立ち上がり動作へのアプローチでトイレ動作が改善することもあるはずである。その理由が理解できていれば問題はない。
立ち上がり動作も下衣の上げ下げも必要となる機能が異なる部分があるため、原因(運動麻痺、バランス障害)が同じでもアプローチ方法は変わるということである。つまり、立ち上がりのための運動麻痺のアプローチ、下衣の上げ下げのための運動麻痺へのアプローチが必要ということである。かぶっている部分もあればかぶっていない部分もあるということを知っておく必要がある。
例えば、立ち上がりと下衣の上げ下げでどのような運動が必要になるのかを整理しなければならない。共通する項目も出て、異なる項目も出てくる。整理とは、共通する部分と異なる部分を見つける作業である。
下衣の上げ下げでは、立位保持能力がどの程度あるのか?上肢がどの程度使えるのか?ということを評価する必要がある。
立位保持では下肢だけで支えることができるか?重心の前後と上下の移動が可能か?
上肢機能では手を自由に動かせるか?ズボンを掴んで下方へリーチできるか?というように分解して評価、アプローチをしていく。
●動作分析のポイント
動作の分解をしないで、「重心移動が〜」や「運動麻痺があるから〜」ということを考えてもどの部分で問題になっているのかが不明瞭になってしまう。そしてそれは直接アプローチに影響を与えてしまう(動作を考慮しないアプローチとなる恐れがある)。
結果として、バランスは良くなったけれどトイレ動作に結びつかないということが起きる。
アプローチするのであれば、患者様にとってプラスになることはもちろん、効率的であるということが必要となる。言い換えると極力無駄なことを省いていくということである。
筆者自身、まだまだ足りないことはあるが、これを考えていくことで評価の構成やアプローチの組み立てが根拠を持つものになってきている。
今までは正常動作と言われることと患者様を比較して考えてきましたが、どうしても当てはまらない部分が出てくるかと思う(むしろそっちの方が多いかもしれない)。
比べるものを正常動作ではなくて、どのような運動により対象とする動作が成り立って(構成)されているのかを比較対象にすれば整理しやすくなる。
●ADLを理解するためには
目的とするADLがどのような動作の組み合わせにより成り立っているのか?動作がどのような運動の組み合わせにより成り立っているのか?ということを整理する。
整理できた上で、患者様の動作と比較して足りない部分を補うためにアプローチしていかなければならない。
私も実際にこれらを行ってきましたが、数学のように明確な答えが出ないことなのでモヤモヤした気持ちになってしまうことも多かった。しかし、繰り返していくうちに理解が深まり、ADLに対して苦手な意識は薄れてきた。
地道な作業の向こう側に自身の成長があるので、やったことない方は是非トライしていただきたいと思う。
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。