胸水が溜まる原因とリハビリ上のリスク管理

胸水とは、肺を覆う臓側胸膜と胸壁側の壁側胸膜の間にある胸腔内に液体が異常に貯留する状態を指す(図1)。

正常でも少量の胸水は存在し、肺の滑らかな動きを助ける役割を果たしているが、過剰に貯留することで肺の膨張が妨げられ、呼吸困難や胸部圧迫感などの症状を引き起こす。

リハビリテーションを実施する上で、この胸水の病態生理と原因を理解することは、安全かつ効果的な介入のために極めて重要である。

 

胸水の原因は多岐にわたり、主に以下のように分類される。

心不全(特に左心不全)
心拍出量の低下に伴い肺循環がうっ血し、血管外に水分が漏れ出すことで胸水が貯留する。両側性に認められることが多く、利尿薬投与後に改善傾向を示す。

感染症(肺炎、結核など)
炎症反応によって滲出液が胸腔に漏出し、時に膿胸へと進行する。発熱やCRP上昇を伴い、全身状態の変化にも注意が必要である。

悪性腫瘍
肺がん、乳がん、卵巣がんなどが代表的であり、腫瘍の直接浸潤やリンパ管閉塞によって胸水が発生する。
血性胸水や再発性胸水を呈しやすい。

低蛋白血症(肝硬変、ネフローゼ症候群など)
血漿膠質浸透圧の低下により、体液が血管外に移行しやすくなり胸水が貯留する。

肺塞栓症、膠原病、外傷など
比較的まれであるが、鑑別診断として念頭に置く必要がある。

リハビリテーション実施時には、胸水の存在が直接の禁忌とはならないものの、その背景にある病態や呼吸循環機能の影響を適切に評価し、細心の注意を払って介入することが求められる。

胸水の増減は胸部レントゲンで評価が可能であり、リハビリ職種も画像の評価を怠らないことが重要である(図2)。

リハビリ上のリスク管理として、以下の点が特に重要である。

バイタルサインの観察
呼吸数やSpO₂、心拍数、血圧の変化を定期的に確認し、運動開始前後での数値の推移をチェックする。
特に呼吸困難感の出現や、安静時SpO₂の低下が認められる場合は活動量の調整または中止が必要である。

体位管理の工夫
臥位での呼吸困難が強い場合、半座位〜ファウラー位での介入が望ましい。
肺の換気を保ちつつ、胸水による肺圧迫を軽減することが目的である。

運動負荷の段階的設定
急激な負荷は呼吸循環動態の悪化を招く可能性があるため、ストレッチや端座位での上下肢運動などから開始し、日々の状態を見ながら徐々に負荷を上げていく段階的アプローチが原則となる。

胸腔ドレーン管理
ドレーンが挿入されている場合、排液量、性状、固定状態の確認が欠かせない。
排液が急増している場合や血性・膿性排液がみられる場合には、医師への報告が優先される。

多職種連携の徹底
主治医や看護師と情報を共有し、リハビリの可否やタイミングを協議することが、安全かつ円滑な介入につながる。

さらに、悪性胸水や感染性胸水の場合は、疼痛や全身倦怠感、免疫抑制といった影響も大きいため、QOLを尊重したリハビリ目標の設定が必要となる。

身体機能の向上だけでなく、「安楽な呼吸姿勢の保持」や「ADLの維持」といった生活の質に焦点を当てた介入が望まれる。

胸水は一つの症状であると同時に、重大な疾患のサインでもある。

リハビリ専門職としては、胸水の量や性状だけにとらわれず、その背景にある疾患の全体像を把握し、根拠に基づいたリスク管理と柔軟な対応を行うことが、質の高いケアにつながるといえる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

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