
高齢者における「息切れ」は、日常生活の質を大きく左右する重要なサインである。
階段を上る、布団をたたむ、買い物に出かけるなどの日常動作での息切れは、加齢に伴う身体機能の低下に加え、潜在する疾患の兆候である可能性がある。
呼吸困難は、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、貧血、腎不全など、さまざまな疾患に由来することが多い。
しかし、高齢者では疾患が明確でなくとも、筋力の低下や身体活動の制限によって息切れが起こりやすくなる。
高齢者の身体は年齢とともに、以下のような変化が生じやすい。
1)呼吸筋(横隔膜・肋間筋など)の筋力低下
2)胸郭の柔軟性低下による換気量の減少
3)肺の弾力性の低下によるガス交換効率の悪化
4)身体活動の低下による心肺機能の退行
5)円背姿勢による呼吸効率の悪化
これらの変化が複合的に絡み合い、「病気がないのに息が切れる」という状態が生まれる(図1)。
息切れの評価では、医療的疾患の除外と並行して、以下のような多角的視点でのアセスメントが必要となる。
息切れ評価のチェックポイント(高齢者編)
1)呼吸パターンの観察(腹式呼吸・努力呼吸・呼吸補助筋の活動)
2)姿勢・体幹機能の評価(前傾・円背・柔軟性低下)
3)下肢・体幹筋力の確認(立ち上がり動作・片脚立位)
4)活動耐容能の把握(6分間歩行テスト・Timed Up and Goなど)
5)主観的評価スケールの活用(mMRC、Borgスケール)
6)服薬や既往歴の確認(利尿薬・降圧薬・心疾患歴など)
近年はmMRC(修正MRC息切れスケール)が簡便で利用されることが増えている(表1)。
高齢者の息切れは、見た目の動作能力だけでは評価しきれない側面を持つ。
心理面や生活習慣も密接に関係しており、「動かないから息切れが治らない」「息切れがあるから動けない」という悪循環に陥りやすい。
息切れの評価を通じて、単に病気の有無を見るだけでなく、「その人の生活にどのような支障があるか」を捉える視点が求められる。
高齢者の息切れは、その人の暮らし全体に目を向ける入口でもある。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。