
がんを患うと、多くの患者が体重減少を経験する。
この現象は「がん悪液質(あくえきしつ)」と呼ばれ、単なる栄養不足ではなく、がん細胞による代謝の異常が主な原因である。
本記事では、がんによる体重減少のメカニズムについて解説する。
- がん細胞のエネルギー消費
がん細胞は正常な細胞と比較して活発に増殖するため、大量のエネルギーを消費する。
その結果、体内の栄養ががん細胞に奪われ、健康な細胞に十分なエネルギーが供給されなくなる。
この状態が持続すると、脂肪や筋肉が分解され、体重減少が進行する。
- 炎症による代謝亢進
がんの進行に伴い、体内では慢性的な炎症が発生する(図1)。
この炎症により、サイトカインと呼ばれる炎症性物質(TNF-αやIL-6など)が分泌され、代謝が亢進する。
通常、体はエネルギーを節約しながら機能しているが、炎症が強まることでエネルギー消費が増大し、栄養が効率的に利用されなくなる。
その結果、脂肪のみならず筋肉も分解され、急激な体重減少を引き起こす。
- 食欲低下と消化吸収の障害
がん患者の多くは食欲不振を訴える。
これは、がんによる炎症が脳の視床下部に影響を与え、食欲を抑制するホルモン(レプチンなど)が増加するためである。
さらに、消化器系のがんでは腸の働きが低下し、栄養の吸収が阻害されることもある。
このように、食事量の減少と消化・吸収の低下が重なることで、体重減少がさらに進行する。
- 筋肉の異化とタンパク質分解
がん悪液質の特徴として、筋肉が優先的に分解されることが挙げられる。
通常、体が飢餓状態になると、まず脂肪がエネルギー源として利用される。
しかし、がん患者の場合、炎症性サイトカインの影響で筋肉の分解が促進され、筋肉量が急激に減少する。
その結果、体力の低下や疲労感の増加が見られ、活動量が減少することでさらなる筋肉の減少を招くという悪循環に陥る。
- がん悪液質の影響と対策
がん悪液質は進行がん患者の約半数に見られ、治療の成否や生命予後に大きく関与する。適切な栄養管理や運動療法を取り入れることで、症状の進行を抑えることが重要である。
具体的には、食事摂取量が低下した患者には経口栄養補助食品(ONS: Oral Nutritional Supplements)を活用し、必要に応じて経腸栄養や静脈栄養を検討することが推奨されている。
また、炎症を抑えるためにEPA(エイコサペンタエン酸)などの栄養素の補給が有効とされる場合もある(図2)。
特に、早期からの栄養介入ががん悪液質の進行を遅らせ、QOL(生活の質)の維持に貢献する可能性がある。
がん患者における栄養管理は、単に体重を維持するだけでなく、治療効果や体力の保持にも重要な役割を果たす。
医師や管理栄養士と相談しながら、適切な栄養戦略を講じることが求められる。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。