足関節背屈可動域制限を改善するポイントは底屈を出していくこと...?!

はじめに

足関節背屈制限は、特に脳卒中後の患者によく見られる問題の一つである。

しかし、ストレッチや拮抗筋の収縮を取り入れても、なかなか改善しないことも多い。

背屈方向へストレッチを行っても可動域が変わらない、あるいは背屈の自動運動を試みても適切な収縮が得られないといったケースは珍しくない。

このような場合、腓骨筋群の収縮を促すことで改善する可能性がある。

本記事では、背屈制限を解消したいが効果が出にくい場合に有効となる、腓骨筋群の収縮によるアプローチを解説する。


足関節の構造と回外への偏位

足関節は、脛骨・腓骨(下腿骨)、距骨、踵骨から構成される複合関節であり、距腿関節・距骨下関節・遠位脛腓関節の3つの関節が関与する。

また、足関節・足部は、構造的に底屈・内転・内がえし(回外)方向へ偏位しやすい特徴がある。

この偏位の要因として、回外に関与する筋群の多さが挙げられる。

具体的には、以下の筋群が回外に作用する。

  • 後脛骨筋
  • 長母趾屈筋
  • 長趾屈筋
  • 前脛骨筋
  • 長母趾伸筋

一方、回内に関与する筋群は以下の3つのみである。

  • 長腓骨筋
  • 短腓骨筋
  • 長趾伸筋

このように、回内に関わる筋群は回外に比べて少ないため、回外方向への動きが優位になりやすい。

また、足関節の構造的特徴として、距骨下関節の運動軸より内側に回外筋群が存在し、回内筋群は外側に位置する。

このため、回外方向への動きが生じやすく、背屈制限が助長されることが多い。


背屈制限へのアプローチ

背屈制限を解消するためには、単に背屈方向へのストレッチを行うだけでなく、背屈・外転・外がえし(回内)方向へ適切に誘導することが重要である。その際、特に回内に作用する腓骨筋群の働きを促通することが効果的となる。

腓骨筋群の収縮を促すことで、拮抗筋である回外筋群の活動を抑制でき、回内方向への動きがスムーズになる。

特に、回内筋の中でも腓骨筋群の役割は大きく、長腓骨筋と短腓骨筋の収縮が重要なポイントとなる。


長・短腓骨筋を活用した介入方法

腓骨筋の収縮を促すことで、足関節の回内方向の安定性を高め、結果的に背屈運動を改善させることが可能となる。長腓骨筋と短腓骨筋はそれぞれ異なる役割を持つため、選択的に収縮を促すことが望ましい。

  1. 短腓骨筋の活性化
    • 第5中足骨外側から抵抗をかけ、足関節・足部を回内方向へ誘導する。
    • 回内運動を意識しながら、低負荷での抵抗運動を行う。
  2. 長腓骨筋の活性化
    • 足部を外転位に保持し、母趾への荷重を意識したカーフレイズを実施する(図1)。
    • これにより、長腓骨筋の遠位停止部である第1中足骨底への影響を最大限に活かす。

なお、足部を内転位にすると、後脛骨筋や長母趾屈筋の収縮が促されるため、回内筋を活性化する場合は外転位を意識することが重要である。


まとめ

足関節背屈制限の改善には、単に背屈方向へのストレッチや自動運動を行うだけではなく、足部の構造を理解した上で適切なアプローチを選択することが求められる。特に、回内筋群の働きを高めることは、足関節の適切な位置調整に大きく寄与する。

脳卒中後の患者においても、立脚後期から前遊脚期(pre-swing)にかけての蹴り出しが不十分なことが多いため、底屈筋の強化とともに長・短腓骨筋の活性化を図ることが重要となる。

背屈制限がなかなか改善しない場合は、一度長・短腓骨筋の運動療法を取り入れてみるとよいだろう。

投稿者

堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職。現在はデイサービスの管理者をしながら自治体との介護予防事業なども行っている。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを持って介護と地域の境界線を曖昧に、かつ、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

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