膝関節の屈曲制限因子を考える

中高年者になると膝関節屈曲制限を生じる人は多い。

膝関節屈曲制限は立ち上がり、階段昇降だけでなく、正座、自転車などの動作にも悪影響を与え、日常生活や仕事の質を低下させることが多い。

正座や自転車等の動作では膝関節屈曲角度は130°以上必要となり、正常可動域以上の可動性が必要となる。

中高年者になれば関節可動域の制限が生じることがわかっている。

5歳から92歳までの6,000 人を対象とした研究では、測定した20か所 (腰椎関節、肘関節、膝関節、股関節、手首関節、首関節および肩関節) 全てで、30歳を過ぎた時点から、男女ともに可動域が減少することが示されている1

特に、膝関節に関しては、加齢に伴い変形性関節症の発生率が高まる。

また、加齢は骨の変性だけでなく、関節包や筋の柔軟性も低下させる。

このような背景から中高年の膝関節の可動域制限は生じやすい。

 ●膝関節の屈曲制限因子

大腿四頭筋(内側・外側・中間広筋、大腿直筋)(図1

大腿の前面にある筋肉の柔軟性が低下すると膝関節の屈曲制限因子になる。

股関節屈曲位にて膝関節屈曲制限がある場合は、単関節筋である外側広筋、内側広筋、中間広筋の短縮が考えられる。

股関節中間位・伸展位にて膝関節屈曲制限がある場合は、二関節筋である大腿直近の短縮が考えられる。

特に、階段降段時には股関節伸展位における膝関節の屈曲可動域が必要となるため、股関節伸展位における膝関節屈曲可動域の評価は重要である。

②膝蓋上嚢(図2)

膝蓋上嚢の滑走性が低下すると屈曲制限の因子となる。

膝蓋骨の上部に位置し、大腿四頭筋の裏に存在する関節腔に連続した組織であり、術後や長期の炎症により組織の癒着が生じやすい。

③大腿前脂肪体(図2)

膝蓋上嚢深部と大腿骨間に存在する組織である。

この組織が癒着を起こすと膝蓋上嚢の滑走性を低下させ、膝関節の屈曲を制限する。

人工膝関節置換術後において、大腿前脂肪体の炎症が生じ、瘢痕化しやすい。

④膝関節水腫(図3)

関節内炎症により水腫が生じると、関節内圧が上昇し、関節包の緊張が増加する。

また、膝関節屈曲時には関節水腫が膝関節の後方関節包に移動するため、膝窩部の圧迫感や疼痛が生じる。

膝関節水腫が生じると正座が出来ないなどの膝関節深屈曲が疼痛のため困難となることが多い。

・参考文献
1Medeiros HB, De Araújo DS, and De Araújo CG: Age-related mobility loss is joint-specific:an analysis from 6,000 Flexitest results. Age (Dordr), 35: 2399–2407, 2013.

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

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