多裂筋の機能を高めるために考えなければならないこととは?

腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰痛をはじめ、円背を呈する高齢者にも多裂筋の機能は重要である。

だが、効果的に多裂筋はどうやったら働くのだろうか?

ただ体幹を伸展や回旋させれば働くのか?

大腿四頭筋や三角筋のように大きな筋肉で、可動性も大きい関節に働く筋肉ではないので、そのように単純にはいかないと筆者は考える。

今回は多裂筋を働かせるために必要な知識をまとめてみたので、参考にしていただけると幸いである。

多裂筋の機能を阻害する3つの筋肉

多裂筋が大事だと考えて運動療法をいくらやっていても、多裂筋の収縮を邪魔する筋肉の短縮や緊張があると、上手く収縮は入らない。

多裂筋の収縮を邪魔する可能性のある筋肉は主に以下の3つ。

・ハムストリングス
・大殿筋
・広背筋

腹筋群が多裂筋の邪魔をするのは容易にイメージできるので、今回は割愛する。

何故、この3つの筋肉が多裂筋の収縮を邪魔するのか。

結論から言うと、これらの筋肉は骨盤を後傾させるからである。

多裂筋の作用としては、脊柱の伸展、反対側への回旋、同側への側屈がある。

起始、停止を見てみると、以下のようになっている。

起始:C4~L5までの横突起、椎間関節包、仙骨背面、上後腸骨棘、後仙腸靭帯
停止:2~4椎体分上位の椎体の棘突起

なので、役割としては脊柱の大きな動きを作るというよりは、局所の椎体の動きの方向付けや屈曲方向への制動、椎間関節の安定性を高めるといったものが考えられる。

では、多裂筋が機能しないとどんなことが起こるのか。

・腰椎前彎の減少
・椎間板内圧上昇
・脊柱起立筋活動の増加

上記のようなことが挙げられる。

多裂筋が機能しない分、脊柱起立筋による脊柱の動きの制動が必要となるので、脊柱起立筋の遠心性の活動が高まる。
それにより、脊柱は椎間関節単位の細かい動きが難しくなり、脊柱全体としての大きな動きしかできなくなってしまう。

ハムストリングスと大殿筋は股関節の伸展筋としての作用があるが、骨盤を後傾させる筋肉でもある。

骨盤が後傾すると、運動連鎖で腰椎は後彎し、腰椎の前彎が減少する。

これは多裂筋の機能不全があると起こることで挙げた要素に当てはまる。

骨盤後傾→腰椎後彎によって、多裂筋には伸張ストレスが加わり、それが持続することで多裂筋の求心性収縮が難しくなり、脊柱起立筋の筋活動を高めることで腰椎の後彎を制動しようとするということである。

逆に考えると、多裂筋の運動療法で負荷を高めるためには股関節を屈曲位にしてハムストリングスあるいは大殿筋を伸張位にすることで、間接的に多裂筋の負荷を高めることができる。

萎縮が多裂筋の機能を阻害する

先ほど、多裂筋は局所の椎体の動きの方向付けや屈曲方向への制動、椎間関節の安定性を高める役割があると述べた。

後者の椎間関節の安定性を高めるためには、持続的に多裂筋が働かなくてはいけず、筋収縮というよりは緊張を保ち続けるということが大事となる。

そのことから、白筋繊維ではなく、赤筋繊維の方が半分以上を占めている。

ですが、上述したような原因もあって、多裂筋が働きにくい状態が続くと、多裂筋は萎縮していく。
実際、慢性腰痛の方を対象とした研究では、多裂筋の萎縮が認められている1)

また、筋肉が萎縮すると、筋肉内の脂肪前駆細胞が増加し、筋肉が脂肪に置き換わりやすい状態となる。

そうして、筋肉が脂肪に置き換わっていくことを脂肪浸潤という。

慢性腰痛では、多裂筋の萎縮も報告されているが、脂肪浸潤も多々報告されている2)

なので、多裂筋の萎縮で脂肪に置き換わらないように多裂筋を促通するような運動療法が必要になってくるとともに、多裂筋の収縮を邪魔する要因の排除がポイントになる。

多裂筋の働きを高めるには

骨盤を前傾させること、腰椎後彎を制動する遠心的な活動がポイントになる。

上述した通り、多裂筋は赤筋繊維が多いので、瞬発力というよりは持久性に関わってくる筋繊維である。

そのため、姿勢保持、特に胸腰椎の屈曲方向に対する遠心性収縮による制動という役割が大きいと考えられる。

腰部多裂筋の活動は、腹臥位での体幹伸展、あるいは骨盤制御を要する股関節伸展で最も高いとされている3)

骨盤を後傾させる3つの筋肉の短縮、あるいは緊張を緩和する、その上で多裂筋の働きを促す、それによって萎縮や脂肪浸潤を予防する。

ここが重要となるのでぜひ参考にしてみてもらえると幸いである。

参考文献

1.Julie Hides et al : Multifidus size and symmetry among chronic LBP and healthy asymptomatic subjects. Man Ther. 2008;13(1):43-9.

2.Michael D Freeman et al : The role of the lumbar multifidus in chronic low back pain : a review. PM R. 2010;2(2):142-6.

3.Jessica Van Oosterwijck et al : Applying an active lumbopelvic control strategy during lumbar extension exercises : Effect on muscle recruitment patterns of the lumbopelvic region. Hum Mov Sci. 2017;54:24-33.

投稿者
堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを持って介護と地域の境界線を曖昧に、かつ、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

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