
〇はじめに
私は通所介護に現在勤めており、認知症のある患者様と接する機会が多くある。
そのなかで、70代で認知症になってしまう患者様や90代でも年齢相応な認知機能を維持している利用者様に出会うことがある。
そうした患者様に接していて、『認知症を発症する患者様と発症しない患者様には生活習慣や生活環境に何か違いがあるのかな?』と疑問に思うことはないだろうか。
まずは認知症の予防のためにはどのようなことが必要かという点についてお伝えする。
〇認知症予防について:1次~3次予防とは
認知症の予防には様々な評価が必要となる。
なかでも以下のようなシステムがある(図1)。1)
そのなかでも認知症の予防について1次予防、2次予防の観点からお伝えしていく。
医学的なリスクファクターの評価は認知症の1次予防にあたり、1次予防とは基本的な生活習慣病の予防と管理のことである。
そのなかでも高血圧や糖尿病、脂質異常症の関連が強いとされており、関連としては以下の(図3)のようになっている。

今回お伝えする生活習慣や生活環境の評価は認知症の2次予防にあたる。
2次予防とは、軽度認知機能障害(以下MCI)、および、軽度アルツハイマー型認知症(以下AD)の予防と改善であり、認知症の初期段階で行い、これ以上の認知症の悪化を防ごうとするやり方である。
ちなみに3次予防に関しても簡単に触れておくと3次予防は,中等度以上の認知症に進行した方の進行の予防である。
この中で最も大切なことは,さまざまな不安を抱え暮らしている方に対し,不安の除去と安心・安全な生活の確保であり、生活の場にある危険な環境を安全な環境に整え,本人の残存機能や過去に獲得した記憶を調べ,生活の中に反映していくことである。
このような関わりにより,記憶障害や見当識障害などが存在しても,対象者は心配のない楽しい役割をもった毎日を送ることができると考える。
〇認知症の予防のためには

ここでは2次予防対策を主にお伝えしていく。
2次予防対策として大きく3つの柱がある。楽しく頭を使うこと、有酸素運動、そして人とのコミュニケーション・社会交流である。
⑴ 楽しく頭を使うこと
⑵ 有酸素運動
⑶ 人とのコミュニケーション・社会交流
⑴頭を使うというのは認知症の予防には基本的なことに感じますがポイントとしては「楽しく」頭を使うという点ではないだろうかと考えている。
例えば難しい課題に取り組み過ぎて苦痛に感じていては良くない。
⑶人とのコミュニケーション、社会交流は認知機能が低下している方からはよく聞くと思う。
ロコモティブシンドロームやフレイルが認知症に関連することも指摘されており、例えばほとんど外出しない、家族以外と接する機会が少なくなったなど。
⑴⑶には下記の効果があり、脳機能の活性化に役立つと言える2)。
ヒトでは読むこと,書くこと,話すことなどが脳機能の活性化に役立つ.ただし本人が興味を持って楽しく行うことが肝要である.配偶者や子供から強いられた課題を嫌々やっても効果はあがらないとされている.つまり読むこと,書くこと,話すことによりコミュニケーションを豊かにすることに意義があるわけである.
そうして脳機能を活性化することで認知症の予防になる。
⑵有酸素運動には以下のような効果がある3)。
運動には、ネガティブな気分を発散させたり、こころと体をリラックスさせ、睡眠リズムを整える作用があります。とくに効果的なのは、体の中に空気をたくさん取り入れながら行う有酸素運動。軽いランニングやサイクリング、ダンスなどがそれです。それでもハードルが高いなと思ったら、近所を散歩したり、緑の多い公園などで、ちょっとアクティブにすごしたりするだけでも効果があります。1日20分を目安に、体がぽかぽかして、汗ばむくらい続けてみましょう。
とあるようにストレスの発散効果がある。
有酸素運動が減っているとストレスが発散できず、認知機能に影響が出るとも考えられる。
またこれ以外の生活習慣に関しては栄養、喫煙の有無、適度な飲酒、睡眠について以下のような認知機能への影響もあるようなので参考にご覧いただけると幸いである(図2)。

〇認知症になりやすい習慣・環境とは
以上のことから認知症になりやすい習慣・環境とは
⑴楽しく頭を使っていないこと
これは頭を使っていないというだけでなく「楽しく」というのがポイント。
本人が興味を持って楽しく行うことがよいとされていますので例えば配偶者や子供から強いられた課題を嫌々やっても効果はあがらないということである。
⑵有酸素運動を行っていないこと
軽いランニングやサイクリング、ダンスなどがそれにあたる。それでもハードルが高いなと思ったら、近所を散歩したり、緑の多い公園などで、ちょっとアクティブにすごしたりするなどでもよい。
1日20分を目安に、体がぽかぽかして、汗ばむくらい続けてみるよう勧めてみるとよい。
⑶ 人とのコミュニケーション・社会交流が少なくなっている。
例えば家にいる時間が長く、家族以外の人と話したり、交流する機会が減っているなどである。
以上のことに頭に入れておくとこの患者さんは今後認知機能が低下する恐れがあるのではないか、どのような対策をとる必要があるかなどの心の準備ができてくると思う。
また、日常生活において楽しく過ごせていない(自分のやりたいことができない)、それによってストレスがたまるといった状態ではよくない。
また、今までできていたことができなくなったとしても新たに楽しみを見つけたり、社会交流をしようとするなど好奇心を持ち続けることも大切と考えられる。
・参考文献
1)下方浩史,安藤富士子ら:生活習慣の是正,日本未病システム学会雑誌,14(1),2008,25-29
2)一宮洋介,認知症の予防には何をしたらよいか?,順天堂医学,54-4,2008,508-510
3)体を動かす,こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~,厚生労働省,2023/05/09, https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_01.html
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを持って介護と地域の境界線を曖昧に、かつ、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。