本稿はいつもと少し違った視点で書いていこうと思う。
介護施設とまちづくり・地域づくり。
と聞くと相交わることがなさそうに感じる方も多いのではないか。
しかし最近は介護施設で働くリハビリテーション職種も多くなってきており、地域づくり、まちづくりというワードも沢山聞かれるようになってきたと筆者は感じている。
介護施設の利用者である高齢者のより良い暮らしを考えると、まちと接点を持つという行為は非常に重要となってくると考えている。
また、まちにとっても介護施設がまちに拓(ひら)けた状態は意味を持つものであり、筆者も現在通所介護施設にて勤務しているが、まちとの接点を持つ取り組みを行っているし、今後も色々な取り組みを行っていく予定である。
今回は介護施設がどのような思いで、まちとの接点を持つといいのかを少しばかり自論を述べてみようと思う。
●介護施設がまちとの接点を持つといいのはなぜか?
・利用者からの視点
介護施設に通って来られる利用者様は、認知機能や身体機能の低下によりできないことが増えていく。
家族などの周りの方々からもできないことを指摘されて、自己肯定感や自己効力感が下がっている方も多くいる。
そのような方に対する解決策の一つは、「できる(自然とできている)」ことに着目し、他者貢献していくことである。
もしくは、そこに居ても良いというメッセージを感じてもらうことだろうと思う。
そのキーワードが「役割」だ。
コロナ禍が終わり、かなり介護施設においても様々な活動が行えるようになってきたが、それでもまだ基本的には介護施設に居る他の利用者か介護施設の職員としか関わることをしていない所が多い。
介護施設がまちに拓けるようになると、もっと多様な人との関わりが増えるだろう。
関わる人が増えるということは、話し相手になったり、挨拶をしたり、物品の贈与が行われたり、何かしらの作業(コミュニケーション)が増えるということでもある。
そして、作業を通じて役割を担う機会を創出することができて、暮らしを豊かなものにしていくのではないかと考えている。
・まちからの視点
介護施設の利用者だけではく、まちにとって介護施設が拓かれているということがどのような意味を持つのだろうか。
地域住民が、気軽に介護の相談ができるようになるのは良いことだと思っている。
介護の状態がひどくなってからの相談だと、職場との調整や親戚との協力関係の構築等、一度に大きな生活様式の変更を余儀なくされる。
早めの相談だと、今の生活を維持した状態で介護がある暮らしへと、緩やかに移行できる確率が高い。
また、現状の介護施設では、まちの人は、利用者がどのような暮らしをされているのかはあまり感じることはできない。
プライバシーの問題はもちろんあるが、介護のある暮らしを事前にイメージできていることはとても重要だと思う。
そして、介護について「知る」機会があることで、メディアや周りの人とからのネガティブなイメージではなく、自身の目や耳で事実を感じ取れるようになる。
逆にいうと「知らない」状況は、暮らしと介護の分断を生むのではないかと思う。
「私にとって介護は関係ないもの」とせず、いつか来る私のためにも、自分の「知らない存在(介護)」を気にかけることは大切だと筆者は考える。
ここまで、介護施設の利用者とまちの視点から、介護施設がまちに拓くことに意味があることをお伝えした。
では、具体的にどのようにして、介護施設とまちが接点を持てば良いのだろうか。介護施設の利用者からの視点であればすぐにでもまちと接点を持つ意味はある。
例えば、介護施設では昼食を作る。
その食材などを「知らない」ところからではなく、まちにある「知った」お店で買うことはできる。
そうすると関わりができるだろう。
そしてその買い物を利用者と一緒にすると、お店の人は利用者に「買ってくれてありがとう」と言う。
私たち職員も利用者に「手伝ってくれてありがとう」と言うだろう。
その瞬間が利用者に何かしらの「役割」 ができる瞬間ではなかろうか。
しかし、まちからの視点で考えてみるとどうだろうか。
介護施設と関わる意味はあるかもしれないが、どの理由も「長期的」過ぎて「今」大切なことではないのである。
つまり、関わりしろがないのである。
その関わりしろをデザインするためには、そのまちならでは課題や欲している思いを観察して解釈することが大切である。
今度私の勤めている事業所で八百屋をしようと思っている。
定期的に同じ時間に関われる場を用意し、野菜のような日用品(果物のような嗜好品も入れながら)の購買作業を通じてコミュニケーションを生むのが良いのではないかと思う。
日用品であれば、毎日きてもいいし来なくても良い。なんなら店番をしてもらっても良い。
近隣スーパーの立地条件を見ても徒歩圏内に買える場があるというのは、高齢化率が高い街のインフラ機能としても有効だと感じる。
ただ、これも現状の仮説に過ぎない。
八百屋的機能を通してコミュニケーションをとっていくことで更なるニーズの発掘にも繋がると思う。固定化させるのではなく関わりしろのデザイン(機能)は常々アップデートさせていきたいと思う。
●介護施設がまちに拓くということ
少子高齢化、人口減少社会の突入し、介護施設が社会的に持つ役割は増えてきていると思う。
一方、商店街をはじめ、さまざまなビジネスは撤退していき空き店舗、空き家が増えていっていることは明白である。
人口減少社会において、飲食店が飲食、本屋が本、雑貨屋が雑貨のように単施設単機能の運営をしていては持続できないのだと思う。
介護施設は、まだまだ需要はあるため持続的な運営はしやすい方だと思う。ただ、街の機能がなくなっていっている中、介護施設を介護だけ行う、単施設単機能な場にするのはとても勿体ないことではなかろうか。
食、本、雑貨のような多機能空間にして、街の人たちが関わりたい思える小さいモチベーションを合算させていく必要があると思う。
このような、街に必要とされる、小さな仕掛けをたくさんすることで、コモンスペース(身近な人たちが気軽に足を運べる拓かれた空間)となるのではなかろうか。
そして、このコモンスペースこそが、暮らしと介護の境界線を曖昧にし、暮らしの中に介護が自然と入ってくるだろう。
きっと、それが、小さい地域包括ケアシステムなのだろうと筆者は考えている。
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。