バランスが悪いを考えてみる

はじめに

バランス能力の低下は、ADLのレベルを上げるために非常に重要な問題である。バランス能力の低下を引き起こす要因には様々なものがあるため、それぞれの問題に対して適切に評価を行い、適切に介入しないとADLの改善は難しい。私もよく同様の問題に直面したが、何となく歩行練習やタンデム歩行、片脚立位練習を繰り返すだけになってしまうことが多かった。今回は、そのような状況を避けるために、評価と介入を行い、歩容が改善した例を事例報告を通じて解説する。


症例の基本情報

  • 性別: 女性
  • 年齢: 80代前半
  • 主訴: 歩行時のふらつき
  • 既往歴: 左大腿骨転子部骨折、DM
  • 疼痛: なし
  • MMT: 股関節伸展2/2、外転2/2
  • ROM: 股関節内転10°/5°、伸展0°/0°、体幹全方向に可動域制限あり
  • 整形外科テスト: トーマステスト+/+、オーバーテスト+/+
  • 歩行: 杖歩行見守り〜軽介助レベル
  • ロンベルグ徴候: 陰性
  • 片脚立位: 左右ともにほとんど保てず

初期評価と問題の発見

この症例では、左右へのふらつきが非常に強く、神経的な問題が疑われたが、脳神経内科の受診結果では問題なしと診断された。しかし、歩行時には近くで見ていないと転倒のリスクが高く、見守りが必要な状態であった。評価の結果、以下の3つの問題が印象的だった。

  1. 股関節内転可動域の制限
  2. 股関節伸展可動域と筋出力の低下
  3. 体幹可動域の制限(全方向)

介入の内容と結果

評価の結果、痛みも筋出力も特に問題がないにもかかわらず、歩容が不安定である理由として、姿勢制御に必要な可動域の余裕がないことが問題であると考えた。このため、以下の介入を行った。

  • ストレッチ: 中殿筋、長内転筋、大腿直筋、腹直筋、前脛骨筋
  • 運動療法: 腹斜筋群、腸腰筋、股関節外旋筋群、前鋸筋、多裂筋

これにより、伸ばすべきところを伸ばし、収縮すべきところを収縮させるというシンプルなアプローチを取った。特別な技術は必要なく、週2回のデイサービスで1ヶ月半ほど介入を行った結果、歩行に関して介助が不要となり、左右への動揺はほぼ認められなくなった。最近では、本人が自ら階段昇降を試みるなど、行動変容も見られた。


まとめ

この事例では、バランス能力の低下が問題であったが、特にバランス練習を行わなくても改善が見られた。大切なのは、何をするかよりも、なぜそれが必要なのかを理解し、適切な評価と介入を行うことである。理学療法士として、評価と介入のプロセスをしっかりと理解し、実践に活かすことが重要である。今後も、具体的な症例を通じて、効果的な介入方法を共有していくことが必要である。このようなアプローチが、他の患者にも有効であることを期待している。

投稿者
堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けセミナー

リハビリマスタースクールでは鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師向けのセミナーを定期的に開催しております。セミナーの詳細はこちらをご覧ください(株式会社ワークシフトのサイトに移動します)

おすすめの記事