リハビリテーションの現場では、運動療法や健康増進のための行動に対してモチベーションが低い利用者に遭遇するとことは少なくない。
筋力低下があるのに、筋力トレーニングの自主トレーニングをしてくれない。
糖尿病が悪化しているのに運動や食事制限などを全く行わない。
リハビリの必要性があるのにリハビリのための通院をしない。
などの、「行動を変える」ことが難しい利用者は非常に多い。
このような利用者に対してどのようにアプローチをすればよいのだろうか?
健康増進への活動を促す理論として、健康信念モデルがある。
健康信念モデルは,1950年代にローゼンストックらアメリカの社会心理学者のグループが結核無料検診サービスの受診動向に基づき提唱したものである。
このモデルは健康増進のための行動変容に与える要素を理論化したものである。
特に、健康信念モデルでは行動変容が起こるには次の二つの要素に注目している。
1)罹患性:「このままでは病気や合併症が本当に自分に起こる可能性が高い」と感じる。
2)重大性:「それによってもたらされる結果は自分にとって重大である」と感じる。
この2つの要素により「人は自分が病気や劣悪な状況になる可能性を感じ、さらにその重大さを感じること,危機感が生まれ行動変容が生じる」と言われている。
したがって、利用者に行動変容を促したい場合、リハビリ職種は利用者に対して「罹患性」・「重大性」について説明をすることが重要となる。
例えば、膝関節人工関節置換術後であるが全く患側下肢の筋力トレーニングを行わない利用者がいたとする。
この場合、「罹患性:筋力トレーニングを行わないことにより、膝関節の不安定性やアライメント変化によるインプラントのずれ」が生じること、および、「重大性:膝関節の不安定性やインプラントのずれが生じれば、膝関節の再手術や感染症が起こる可能性がある」ことを説明する。
健康信念モデルは、見方を変えると「○○をしないと××になりますよ」というある種の「脅し」にも聞こえる。
ただ、リハビリ職種は身体機能の専門家であるので、単なる「脅し」ではなく、専門的知見に基づく意見を利用者に伝えることが重要である。
また、専門的な意見に対する利用者からの質問にも丁寧に対応し、罹患性と重大性を理解してもらうことが行動変容へ第一歩になる。
したがって、健康信念モデルを活用するためにはリハビリ職種の説明力が重要となる。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。