
理学療法ガイドラインに記載されている下肢の運動学的・運動力学的変化の項目から変形性膝関節症(以下膝OA)を考えてみようと思う。
両側膝OAでは健常者の歩行動作と比較して、立脚期の間に明らかに骨盤の前傾、遊脚側への骨盤傾斜、膝関節外反の減少が認められたとされ、重度膝OAでは股関節外転、膝関節伸展、足関節底背屈角度が大きかったとされている。
最初の太字の部分の要素を分解すると、骨盤前傾は股関節の骨頭被覆率を高めて下肢の安定性を高める戦略、遊脚側への骨盤傾斜は中臀筋や大腿筋膜張筋、小臀筋などの外転筋の遠心性収縮の弱化、膝関節外反の減少は内反方向への偏位の増強が考えられる。
膝OAは内反変形が特徴的であるが、外反の減少からも言える。
膝の内反方向への偏位は腸脛靱帯や大腿二頭筋、外側広筋といった外側の長い軟部組織の張力を利用して安定性を代償している。
それが慢性化すると膝の変形が強くなり、痛みも伴う。
それもあって、内反による代償だけでは姿勢・運動制御をするのが困難になると股関節による代償も利用して制御をする様になる。
それが骨盤前傾による股関節の安定化と考えることができる。
なので、痛い部位をマッサージするだけや体を起こすように指示するだけでは解決にはならない。
立脚期に膝が内反方向へ偏位しないように、股関節伸展・内転・内旋、骨盤後傾に作用する筋肉の評価とアプローチが必要になる。
他には、膝OAでは立脚期の間は股関節屈曲モーメントと膝関節伸展モーメントが小さかったとされている。
立脚期の短縮が起こると、反対側下肢の屈曲をする時間がなく、浅い屈曲角度で接地することになる。
浅い屈曲角度から伸展するのは難しいため、骨盤の前傾で相対的に股関節を屈曲位にして、伸展方向へのモーメントを作る代償が起こると考えられる。
膝伸展モーメントの減少も同じ理由で説明できる。
なので、単純な股関節・膝関節の筋トレではなく、元をたどると立脚期の短縮が原因なので、立脚期を不安定にしている原因に対して評価、介入する必要がある。
これと先ほどの内容を踏まえると、骨盤の遊脚側への傾斜や前傾などの要素が膝OAでは多いということが分かっているので、闇雲に評価せず、予測を立てて評価し、患者さんの負担も減らすことが重要となる。
また、こちらが提供する時間の短縮にもなるので、空いた時間で他の評価や介入、ADL動作への介入もできる。
ガイドラインは絶対的なものではないですが、内容を踏まえてどう活かすのかが重要となる。
参考文献)
日本運動器理学療法学会:理学療法ガイドライン(第2版).2021;:701-703.
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。