
通所介護・通所リハビリテーションにおける送迎と記録は運営上、極めて重要なものです。
名前の通り、利用者に通所をしてもらうことでサービス提供が可能となりますので、自宅から通所事業所までの送迎が原則的に必須のサービスとなります。
質の高い送迎ができなければ、利用者からのクレームや現場スタッフの業務負担増加などに発展し、通所事業所の運営に大きな支障をきたします。
1) 送迎
通所介護・通所リハビリテーションの送迎業務でよくある課題を次に示します。
1.運転者の運転技術が低い。
急なハンドル操作、急発進、急停止は乗車している利用者を不快な気分にさせるだけでなく、車内での事故に繋がります。また、実際に交通事故を起こす可能性が高くなります。
2.スタッフの接遇レベルが低い。
送迎時には利用者だけでなく、家族や関係者との接点があります。その際の接遇レベルが低いと通所事業所全体のイメージまで悪くなります。往々にして、送迎専従スタッフは、通所事業所の理念や運営方針を理解していないことも多く、質の高い接遇が必要であることを意識していないことがあります。
3.運転手や送迎スタッフが通所事業所周辺の道路事情に詳しくない。
通所事業所サービス対象範囲の道路事情に詳しくない場合、交通渋滞や送迎最短ルートを把握できません。それにより送迎時間の遅延が生じ、利用や家族からクレームが生じるリスクが高くなります。
4.送迎スタッフが利用者の身体能力や乗降場所の把握していない。
利用者の身体能力を把握しなければ、乗降時の転倒リスクの管理ができません。また、各利用者の乗降位置は身体能力や道路事情などにより異なります。乗降位置を把握していなければ、利用者の転倒リスクや予定乗車時間の遅延が生じる可能性があります。
5.送迎車両の管理ができていない
日々の送迎車の点検を怠っている事業所は、車両の傷などの損傷、座席の汚れ、車椅子固定金具の破損など、車両に関するトラブルが多くなりがちです。それらの修繕や修理には、当然、費用がかかります。また、送迎中に利用者に対する事故のリスクも高くなります。
以上のような課題を解決するためのポイントを次に述べます。
1.「送迎は通所のサービスの一部であり、サービスの始まりと終わりを担う重要な業務である」という認識を送迎スタッフに持たせることが大切です。
サービスの始まりの部分で、接遇の悪さ等により利用者を不快な気分にさせると一日中、その利用者は不快な気分を引きずることでしょう。
また、一日の通所のサービスが良いものであったとしても、サービスの終わりの部分で、利用者を不快な気分させると、一日のサービスが台無しになります。
送迎専従のスタッフがいる事業所は特に要注意です。専従送迎スタッフは、送迎サービスが通所サービスの一部であるとの認識を持っていないことがしばしばあります。
2.送迎サービスは、複数のスタッフが状況に応じて入れ替わるため、常に同じスタッフが業務に携わる訳ではありません。
よって、運転手やスタッフが変わると、送迎ルート、乗降位置、接遇、介助方法などが変わる可能性があります。
スタッフによって対応方法が変わると、利用者は困惑し、最悪な場合、クレームや利用契約終了に発展する危険性があります。
このようなことを防止すために、事業所内で「送迎サービスに関するマニュアル」を作成する必要があります。マニュアルには、接遇方法、乗降位置、運転技術、介助方法、車両点検などについて記載します。
そして、マニュアルの内容に実効性を持たせるために、送迎部門に責任者を配置し、抜き打ちで送迎サービスを点検するなどの対策が必要となります。
3.送迎サービスで最も深刻な出来事は、交通事故と飲酒運転です。人身事故、物損事故、飲酒運転などは近年、全国の通所系サービスの送迎で頻発しており、深刻な問題となっております。
実際に筆者の知っている通所系の事業所においても、運転手の飲酒運転が起因となった物損事故がありました。このような事態が生じると、通所事業所の関係者(ケアマネージャー・利用者・家族等)の信頼を失墜します。
そこで、定期的に安全運転講習の実施や運転技術の確認を行うことをお薦めします。安全運転講習は損害害保険会社やNPO法人が行っておりますので、それらを活用することも一つの方法です。また、送迎部門責任者による送迎同行により、運転者の運転技術を確認することも有効です。飲酒運転などに関しても、乗車前の呼気確認や問診などが効果的です。
4.最近では、送迎サービスを企業に外注する通所事業所もあります。
外注には、それ相応の費用が生じますが、送迎を専門とする業者ですので、運転技術や接遇などに関しては一定の担保がされていると言えます。送迎サービスの外注は、今後、送迎業務運営の一つの選択肢となってくるでしょう。特に、利用者数が多い事業所にとって、送迎サービスの外注は検討に値します。もちろん、外注したからと言って、送迎業務を丸投げしてはいけません。外注先と緊密に連携し、利用者に適切な送迎サービスを提供する努力が事業所には求められます。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
過去に3つの鍼灸院の経営や運営に携わり、鍼灸師によるリハビリテーションサービスを展開していた。また、デイサービスも立ち上げ、鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師による機能訓練やリハビリテーションを利用者に提供していた。鍼灸師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師の方々への教育や指導経験が豊富である。現在も、全国各地でリハビリテーションに関するセミナー講師として活動している。