痛みの生理学について

皆様は、骨折などが生じた際の急性期の痛みがどのような経過を辿っていくかご存知だろうか?

受傷直後、数週間後、数ヶ月後というふうに、時間がたつにつれて痛みを取り巻く環境は確実に変化していく。

特に受傷直後=数週間の期間に、適切な対応をしないといつまで経っても痛みが引かないことにもなりかねない。

今回は、そんな痛みの経過を生理学の観点から話していきたいと思う。

I.痛みの経過分類

痛みは大きく3つに分けられて、順に経過を辿っていく。

・急性期の痛み

・亜急性期の痛み

・修復過程の痛み

これらを順番に解説していく。

I-1.急性期の痛み

急性期の痛みとは、受傷直後の痛みである。

この時期は様々な要因が組み合わさって痛みを起こしているので、どの要因によって痛みが起こっているのかをしっかりアセスメントをして、その結果に基づいてアプローチすることが重要となる。

まず、組織が損傷することで侵害受容器が反応し、それが痛みを起こす。

組織が損傷しているので、痛みが起こるのは理解できるかと思う。

さらに、侵害受容器が侵害刺激を受けることで、発痛物質が産生され、それでも痛みが起こる。

そして、発痛物質が発痛増強物質を産生するため、発痛物質+発痛増強物質で痛みをより強く感じる。

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つまり、この時期は二つの要因により痛みが起こっているということになる。

・組織損傷による直接的な痛み
・発痛物質による痛み

の二つである。

I-2.亜急性期の痛み

この時期は炎症による痛みが大きな要因となる。

炎症と言えば、以下の5徴候がよく知られている。

・熱感
・発赤
・腫脹
・疼痛
・機能障害

しかし、この5徴候では細かい評価には不十分な点もある。

そこで、知っておくと良いのがLewisの3重反応というものである。

・発赤:血管拡張による損傷部位の赤み
・腫れ:発赤部位を中心とした2-3mmの範囲の浮腫を伴う腫れ
・フレア(flare):腫れの周囲数cmの範囲の血管拡張による紅潮

引用:On the origin from the spinal cord of the vaso-dilator fibres of the hind-limb, and on the nature of these fibres

炎症の徴候とも被る部分があるが、発赤や腫脹という言葉だけ覚えていても、具体的にどれくらいの範囲に症状が出るのかなど。

こういった部分が不明確なので、Lewisの3重反応に照らし合わせて、損傷部位周囲、数mmの範囲、数cmの範囲に分けて評価してみると良い。

そうすると、炎症の範囲も理解でき、損傷部位とその周囲数cmは侵害刺激と炎症による痛み、その範囲を超えた痛みは別の要因を考えるといった展開をしやすいこともメリットとなる。

さらに、炎症メディエーターによる作用でも痛みが起こる。

炎症メディエーターとは、炎症部位に存在する白血球やマクロファージなどから放出される物質でして、生体に以下の作用をもたらす。

・血管透過性亢進
・血管拡張
・白血球の遊走、浸潤
・組織破壊

この炎症メディエーターが、ポリモーダル受容器(機械刺激、温度刺激、化学物質刺激に反応)を刺激、それによって受容器の興奮性が亢進し、痛みを引き起こす。

さらに、痛みの閾値を低下させ、痛覚過敏をもたらすため、それもまた痛みを大きくしてしまう要因となる。

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まとめると、この時期の痛みは以下の通り。

・炎症による痛み
・炎症によって生じる、白血球・マクロファージが放出する炎症メディエーターによるポリモーダル受容器への刺激がもたらす痛み
・ポリモーダル受容器の興奮性亢進による痛み閾値の低下による痛み感度の増大

I-3.修復過程の痛み

この時期は、これまでの経過が順調であれば、炎症は収束し、炎症によって生じた化学物質は中和、分解、除去される。

また、正常な血流とリンパ流が再開する。

炎症期がおおよそ、受傷後から2、3週間程度続き、その後収束していく。

この辺りから、炎症による痛みは落ち着いてくるはずなので、痛みの範囲は狭く、痛みの部位がより明確になってくる。

ここで重要なのが、損傷組織の修復期間はどれくらいなのかということ。

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・皮膚:2週間前後
・腱:6週間前後
・筋:2週間前後
・骨:6週間前後で仮骨形成
大腿骨頚部骨折→24週前後で骨癒合
上腕骨骨幹部骨折→6週前後で骨癒合

炎症期を抜けたとしても、皮膚や筋組織の修復はまだ続いているかもしれないし、腱や骨なんかは部位によりますが、まだまだ完全な修復とはいえない。

このことを踏まえ、炎症による痛みが続いているのか、損傷組織由来の痛みなのかを評価して、それに合ったアプローチをしていくべきだと考えている。

また、修復過程の期間までの対応によっては、侵害受容ニューロンの過敏化(感作)による痛みが生じてしまう場合がある。

侵害受容ニューロンの過敏化による痛みは、二つに分けられる。

・末梢性感作
・中枢性感作

炎症性の痛みがあると、侵害受容ニューロンの過敏化による痛みは分かりにくいため、この時期に表面化してくる。

この変化は可塑的変化、つまり、一度末梢の受容器、中枢神経系の変化が生じてしまうと、元通りにはならないということ。

なので、この時期に至るまでに表面化しないような対応が求められるということである。

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・末梢性感作
侵害受容器の感受性が亢進した状態。

特徴としては、以下の通り。
・痛み閾値以下の刺激で痛みを感じてしまう
・侵害受容器の興奮性増大
・同じ刺激に対するインパルス発火頻度の増加

ざっくり言うと、普段は何ともない刺激でも、必要以上に痛みを感じてしまうということ。

・中枢性感作
中枢神経系の侵害受容ニューロンの感受性が亢進した状態。

先に説明した末梢性感作によって、本来以上に侵害刺激として中枢神経系に刺激が加わる。

持続的な神経への刺激によって、中枢神経系が変化し、脊髄後角を通る伝導路の中で、本来はその刺激が上行しない経路から痛み刺激が上行していく。

それによって、本来以上に脊髄神経が興奮してしまう状態のことを指す。

一般的な侵害刺激による侵害受容器が反応して痛みが起こるという流れと異なる点は、侵害受容器が刺激されていないくても痛みを感じてしまうという点。

つまり、消炎鎮痛薬なんかは効果がほぼ見込めないということになる。

プラセボによる効果は多少あるかもしれない。

修復過程の痛みをまとめると、以下の通り。

・炎症による痛みは収束、損傷組織自体の痛み
・侵害受容ニューロンの過敏化による痛み

Ⅱ.まとめ


・急性期の痛みは、組織損傷による痛みと発痛物質による痛みが主

・亜急性期の痛みは、炎症による痛みが主
・修復過程の痛みは損傷組織自体の痛み、侵害受容ニューロンの過敏化による痛み

であると考えている。

受傷直後から組織が修復していく過程の痛みは、様々な要因が重なり合っておこっている。

痛みを後に残さないため、痛みを増強させないため、組織の修復を邪魔しないために考えないといけないことはたくさんある。

そのためには、まず今回ご紹介した痛みの生理学的な基礎を学んでおく必要があるというわけである。

投稿者
堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

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