転倒の要因を受傷機転から予測する

転倒の要因は内的要因、外的要因などに分けられるが、かなり多くの要因が関連している。

筋力や姿勢はもちろん、身体イメージ、興奮抑うつ状態、転倒恐怖感、感覚機能、平衡機能、高次脳機能、注意機能等などセラピストが多く関わっている運動器機能と直結する印象が少ないワードも多い。

そんな様々な要因がある中で、対象者の方の転倒した要因を探るのに重要となるのが受傷機転の問診である。

今回は、受傷機転の様々な例を紹介し、受傷機転から考えられる転倒の予測因子はどのようなものがあるのかについて述べていきたいと思う。

●1例目
受傷機転
めまいがしてふらついて転倒→予測因子【平衡機能、薬物、疾患等】
考察:何性のめまいかが大事。前庭機能障害である回転性めまいなら、前庭系へのアプローチや、動作指導が必要となる。起立性低血圧である失神性めまいなら、降圧薬の見直しや姿勢変換後の対応の仕方を指導したりする。※眩暈の因子は、見逃す事が多い。スタンダードな歩行練習や筋力増強練習だけをしたところで眩暈は解決しないため、入院中に眩暈の症状を訴えでもしない限り、気付かずに退院することもあり得える。

●2例目
受傷機転:疲れていた時にふらついて転倒→予測因子【持久性、疾患等】
考察:まずは、易疲労性のある疾患が無いか確認が必要。その後、転倒直前まで何をして疲労状態に至ったかを問診する。10㎞歩いた後にふらついたならまだしも、日常生活程度の労作のみなら、運動耐用能を向上させるアプローチが有効。また、動線の再検討や歩行補助具の選定を行い、身体への負荷予測因子を下げることも重要となる。

●3例目
受傷機転:膝折れ・膝崩れが起きて転倒―予測因子【筋力、疾患】
考察
:これは単純な筋力低下や、麻痺が原因かもしれない。かなり筋力発揮が低下している事が推測出来るため、筋力増強だけでなく、歩行形態の再選定や手すりなどの住宅改修を重点的になる場合がある。

●4例目
受傷機転:何か用事をしている時にふらつき転倒―予測因子【注意、二重課題】
考察:
これは非常に多いと筆者は感じる。ありがちな直進での歩行練習をいくらしても、解決策とは言えない。歩行中に声をかけ、立ち止まるかどうかを評価するSWWTが臨床ではおすすめである。立ち止まるまでいかずも、歩行速度が低下する人はかなり多いと感じる。計算課題やエピソード記憶を想起しながらの歩行や、課題志向型の歩行をするアプローチが有効となる。

●5例目
受傷機転:数センチの敷居に気づかず転倒―予測因子【段差、注意、二重課題、感覚】
考察:日常的には敷居の存在に気付いているはず。それに躓くとなると、やはり二重課題時で注意が逸れて転倒した可能性が出てくる。先程と同じ様なアプローチの流れが有効である。

●6例目
受傷機転:段差及び階段を踏み越えられず、躓いて転倒―予測因子【筋力、段差】
考察:敷居ではなく、ある程度の高さがある段差に躓いたのなら、筋力発揮が低下している可能性がある。昇段、降段共に必要な筋力を評価し、強化するアプローチと手すりの設置が必要となる。

●7例目
受傷機転:夜間、暗闇で躓き転倒―予測因子【感覚、部屋環境、照明】
考察:
視覚優位での制御になっている可能性がある。閉眼位でのバランス評価を行い、
体性感覚や前庭感覚への刺激を目的としたアプローチをする。また、夜間でも移動するトイレへの動線は、照明が必要であることを指導する。

●8例目
受傷機転:なぜ転倒したか関心が薄い→予測因子【自己効力感が高い=転倒恐怖の逆】。
考察
脳震盪を起こし逆行性健忘となることはある。そうでない場合に、あまり受傷時の記憶が無い方がいる。これはかなり要注意。転倒後は、再転倒を恐れる方が多いはずだが、自己効力感が高いと「またこけるから気を付ける」という意識が乏しい状態。つまり、歩行に注意が向かないどころか、歩行レベルを過大評価し歩行補助具を意識的に使用しないパターンも多い。

受傷機転自体まだまだ無数にあり、また、これだけ語ってきたが、受傷機転のみを転倒因子の決定打には到底出来ない。

あくまで一指標、第一選択。

疾患や、基本的な評価も交えながら転倒因子を評価していくことをおすすめする。

投稿者
堀田一希

・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

 

 

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