
股関節には、静的安定化機構と動的安定化機構の2つが安定化に関与するものとして存在している。
1.股関節の静的安定機構の特徴
まずは、静的安定化機構について解説する。
・骨形態
・臼蓋は前外方に30°〜40°傾く。
・大腿骨には前捻角と頚体角がある。
・前捻角(15~20°)
・頚体角(125~135°)
・関節軟骨
・大腿骨頭側:最も厚い部分は約3.5mm
(立脚期での体重の3倍かかる圧力を支持するため)
・臼蓋側:月状面のみ大腿骨頭と接触
・関節唇
・外1/3にのみ血液を供給
→治癒能力が低い
・神経が存在
→疼痛を感じやすい
・関節包
・臼蓋側:関節唇周囲の寛骨臼縁・臼蓋横靭帯
・大腿骨側:前方は転子間線・後方は転子間稜1横指近位
→後方は頸部全体を覆ってはいない
※輪帯というものが存在するが、これは関節包の一部が内包に向かって肥厚したもので大腿骨頭の牽引・過度の伸張を制動する。
・靭帯
<腸骨大腿靭帯>
・下前腸骨棘・寛骨臼上縁
・横走線維:大転子
・縦走線維:転子間線
・最大伸展時に前関節包とともに伸張
・最大外旋時に特に横走線維が伸張
※内転の制動にも寄与
腸骨大腿靭帯は大腿直筋腱・小殿筋腱・輪帯と繋がりを持つ。
腸骨大腿靭帯は約350kgに耐えることができ、この強靭性を活かし、立位での体幹後傾を制動する。
<恥骨大腿靭帯>
・腸恥隆起の前面内側・恥骨上枝
→転子窩前面外側
・伸展・外転・(外旋)で伸張
関節包(混入)・腸骨大腿靭帯の縦走線維と繋がりを持つ。
関節包が露出することで不安定性が高まるが、腸腰筋が補強し、安定性を確保することができる。
<坐骨大腿靭帯>
・寛骨臼後下面
→外前方へ捻れながら転子窩・一部は輪帯に。
・伸展時+屈曲位における内旋時に伸張
・上部線維は内転時に伸張
後下方関節包・輪帯と繋がりをもつ。
後上方部は関節包が露出するが、大腿直筋の反回頭が補強し、関節を安定させる。
これらの靭帯は総合的な作用として、屈曲位で弛緩・伸展位で緊張する。
その他に神経が存在しているため、痛みを感じてしまう。
2.股関節の動的安定化機構の特徴
次に、動的安定化機構について解説する。
これは3つないし4つで構成されており、外旋六筋・小殿筋・腸腰筋・(内転筋)が挙げられる。
これらの筋は大腿骨頭を求心位に保つための股関節インナーマッスルとして働く。
(関節運動軸の安定には協調的な働きが必要)
・外旋六筋
・大腿骨上の骨盤回旋を行い、方向転換に関与
インナーマッスルとしての役割
・骨盤回旋に伴い、遠心性収縮により大腿骨頭を求心化
→股関節の安定化
外旋六筋の中でも特に外閉鎖筋はしゃがみ動作等で非常に重要な役割を担っている。
股関節屈曲(しゃがみ動作等)
↓
筋線維の走行が大腿骨頭の後方を通る
↓
大腿骨頭を求心位に
↓
脱臼予防に繋がる。
さらに外旋六筋は以下の繋がりを持っている。
・梨状筋:中殿筋・小殿筋腱・上双子筋・内閉鎖筋腱
・上双子筋・内閉鎖筋・下双子筋:共同腱となって停止
・大腿方形筋:下双子筋・大内転筋
・外閉鎖筋:閉鎖膜を介して内閉鎖筋
・小殿筋
・腸骨外面の前・下殿筋線の間
→大転子前外方
→上部関節包(収縮時に関節包の挟み込みを予防)
→大腿直筋の線維と付着との報告あり
・股関節症では筋萎縮しやすい。
50分間の歩行後、片脚立位で成人では中殿筋の3倍働いたとの報告がある。
健常者ではTst(terminal stance)で筋活動のピーク値を示すが、股OAではIC(initial contact)に筋活動のピーク値を示す傾向もある。
つまり、股OAでは大殿筋・小殿筋が初期に衰弱し、その後に中殿筋の萎縮が続くことが予想される。
個人的にこれがTstを十分に作れない要因に繋がるのではないかと思う。
・腸腰筋
・腸骨筋:腸骨窩と仙腸関節の前上方の仙骨外側
・大腰筋:T12~L5の椎間板を含めた横突起
→鼠径靭帯の遠位で合流し、大腿骨小転子
インナーマッスルとしての役割
・大腿骨頭の前方部分を覆い、骨頭前方偏移を抑制
立位では、大転子の位置が前方にあると負荷がかかりやすくなる。
そして、過用による筋出力低下や骨頭前方偏位が生じ、股関節前面痛に繋がる可能性も考えられる。
歩行では、Mst(mid stance)以降に遠心性収縮し、股関節前面の安定化に働く。(Pre-swing以外)
インナーマッスルの話も少し出たので簡単にまとめる。
❶関節に負担がかかりにくい
これは疼痛予防に繋がると考えられる。
❷腸腰筋や小殿筋等の深層筋は最終域でも活動できる
❸アウターマッスルと違い、遅筋線維が多い傾向
インナーマッスルを使えていると疲れにくい印象がある。
❹筋紡錘が多い傾向
姿勢の制御に関与しやすい印象がある。
❺関節運動時に真っ先に働き、関節を安定させる
こちらも姿勢の制御に関与しやすい印象がある。
3.最後に
今回の話を簡単にまとめると、
〇静的・動的安定化機構がある
⇒動的安定化機構の筋は大腿骨頭を求心位に保つ
〇関節の前方は骨形態的には被覆率が低く、不安定
⇒関節包・靭帯・筋等が前方部を補強
〇骨性に安定性が増す角度と関節包・靭帯性に安定性が増す角度に違いがある
⇒インナーマッスルが重要になる
上記で述べてきたように股関節を安定させるためには何が必要か?について基礎的なところから考えることは非常に重要であると考える。
参考書籍
股関節〜協調と分散から捉える〜 建内宏重(ヒューマンプレス)
投稿者
堀田一希
・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職する。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを掲げている介護施設にて、日々、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。