
本稿では、あまり聞き馴染みがないと思われるカヘキシア(悪液質)について、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方に対して解説をさせていただく。
カヘキシアとは、「慢性疾患を背景に生じる筋肉量の減少を主徴とする複合的な代謝障害の症候群」のことである。
そのため、カヘキシアになると身体機能の低下、生活の質(quality of life:QOL)の悪化、治療毒性の増強、予後の悪化をもたらすとされる。
上記の定義中にある慢性疾患に含まれる疾患は、癌や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全(CHF)、慢性腎臓病(CKD)、慢性肝不全、自己免疫疾患・膠原病、慢性感染症、敗血症などである。
特に、これらの疾患の末期や進行期に合併して認められる。
すなわち、このような慢性疾患を既往歴として持っており、罹患歴が長期に渡る患者は、筋肉量の減少が生じやすいのである。
なぜならば、カヘキシアでは炎症性サイトカインが多量に分泌されることで、エネルギー代謝や筋タンパク代謝などに悪影響を及ぼし、食欲低下(食思不振)と骨格筋萎縮を惹き起こすからである。
その結果、体重減少や筋力低下、運動耐容能低下、身体活動量の低下がみられるようになる。
外来臨床においても、数か月間姿をみなかった患者が久しぶりに来院すると、ガリガリに痩せ明らかに筋肉量が減少し、筋力低下が起こって、常に疲労感を訴えているという経験はないであろうか。
情報収集すると、上記した慢性疾患のいずれかで入院することになり(特に消化器系の癌が多い)、数ヵ月後に退院したというエピソードが聞かれることがある。
こうしたケースはカヘキシアと考えてよいであろう(以下、『カヘキシアの診断基準』を参考)。
カヘキシアに対して、標準化された治療法は今のところないとされている(エビデンスが不十分)。
そのため、運動療法、栄養療法、薬物療法などを実施し、身体機能やQOL、疲労感の改善を図る必要がある。
カヘキシアの診断基準
過去12ヵ月以内に5%以上の体重減少あるいはBMI<20kg/m2に加え、
①筋力低下
②疲労感
③食欲不振
④筋肉量減少
⑤生化学検査値異常(CRP>0.5mg/dLあるいはIL-6>4.0pg/ml、Hb<12.0g/dL、Alb<3.2g/dL)
の5項目中3項目が該当する場合にカヘキシアと診断する。
投稿者
井上拓也
・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
・サルコペニア・フレイル指導士
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。