
筋肉の働きは、一般的には①関節の運動、②熱の産生、③循環作用(末梢の血液を心臓へ送るポンプ作用)、④体温調整、⑤骨や関節を保護するといったところであろう。
しかし、近年は新たな作用があることが発見・証明されてきている。
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方は、筋肉が『内分泌器官』であるということはご存知であろうか。
内分泌というのは、いわゆるホルモンのことを指すが、筋肉も『マイオカイン』という物質を分泌するとわれている。
『マイオ(myo)』とは“筋”という意味であり、『カイン(kine)』とは“作動物質”のことである。
つまり、筋肉から分泌される物質ということで『マイオカイン』と名付けられた。
このマイオカインは内分泌されるため、血液を介して、全身の臓器に多様に作用して組織連関により、様々な有益性をもたらしてくれるのである。
このことは、2012年に世界で最も有名な科学誌『Nature』で掲載(“Skeletal muscle as a secretory organ(内分泌器官としての骨格筋)”)され、当時は非常に話題性があった。
ではこのマイオカインが身体にどのような有益性を与えてくれるのか、一部ご紹介したい。
マイオカインの数は、現在知られているだけでも20数種類存在する。
その中でも最も有名なものが、『脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor(以下、BDNF))』であると思われる。
このBDNFは認知機能や抑うつに関わるホルモンで、認知症患者やうつ病患者では、その血中濃度が低下していることがわかっている。
逆にいうと、運動によりBDNF分泌を増加することができれば、認知機能や抑うつが改善することが示唆されるのである。
また、記憶の中枢である海馬の肥大には、BDNFが必要不可欠とされている。
また、『イリシン』というホルモンは、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へと分化促進作用を有していることから、肥満を改善し、インスリン感受性を向上、動脈硬化を改善するとされている。
以上、筋肉の新たなる質的な側面について述べた。
冒頭で述べたような筋肉の働きも重要なことに変わりないが、『内分泌器官としての骨格筋』については、今後ますます研究が進み、その詳細な働きが判明してくると思われる。
投稿者
井上拓也
・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。