
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の方々は、心臓リハビリテーション(以下、心リハ)はご存知であろうか。
心リハとは、文字通り『心血管疾患患者に対するリハビリテーション』であるが、定義としては、心リハとは「医学的な評価、運動処方、冠危険因子の是正、教育およびカウンセリングからなる長期的で包括的なプログラムである。
このプログラムは、個々の患者の心疾患に基づく身体的・精神的影響をできるだけ軽減し、突然死や再梗塞のリスクを是正し、症状を調整し動脈硬化の過程を抑制あるいは逆転させ、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的とする」と定義されている。
つまり、その目的は①身体的および精神的デコンディショニングの是正と早期社会復帰、②冠危険因子の是正と二次予防、③患者のQOL(Quality of life:生活の質)の向上である。
デコンディショニングとは“脱調整”ともいい、身体が本来備えている様々な“調整機能の低下”を指す。すなわち身体的デコンディショニングは、運動耐容能低下や心拍血圧調節異常、骨格筋廃用性萎縮、骨粗鬆症などの身体調節異常が生じることであり、精神的デコンディショニングはうつ・不安の増大などを指す。
また冠危険因子とは、動脈硬化(冠動脈も含む)の危険因子のことであり、高血圧・糖尿病・脂質代謝異常(高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症)・喫煙・肥満・家族歴等が含まれる。
虚血性心疾患や心不全、心臓弁膜症、不整脈、高血圧等を有する心血管疾患患者では、概ね心機能が低下しており、心機能の低下に基づく中枢性および末梢性の循環障害により筋機能も低下する。
そのため、活動量が低下し運動耐容能の低下が惹起される。
また、うつや不安などを発症するケース非常に多いとされる。心リハではこれらを是正し、早期社会復帰を支援することになる。
心血管疾患患者の生命予後改善のためには、入院を回避することが重要となる。そのために冠危険因子の是正と二次予防が重要であり、運動療法や患者教育、食事療法が必要となる。
また、生命予後のみならずQOLを改善することも心血管疾患患者にとっては重要である。近年では、心不全患者に対する『緩和ケア』という概念が提唱されている。
患者だけでなく、その家族も含め、早期から全人的苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛)に対処することで、QOLの改善を図っていくことが重要であるといわれている。
以上、概論的に心リハについて述べさせていただいた。鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師は、心リハにあまり関る機会はないかと思うが、どのように感じたであろうか。
最後に、心リハは我々理学療法士のみで完結できるものではなく、医師や看護師、作業療法士、管理栄養士、薬剤師等の医療専門職種が患者と関わり合う包括的リハビリテーションにおいて、上記の目的を達成することができるのである。
投稿者
井上拓也
・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。