筋萎縮が起こる原因 筋タンパク分解亢進メカニズム

筋萎縮が起こるメカニズムを簡潔にいうと筋構成タンパクの合成が低下するか、分解が亢進するかのどちらかである。

そのどちらにおいても、筋構成タンパクが『合成<分解』のバランスになるために筋萎縮は進んでいくのである。

特に不活動期間の延長に伴い、筋構成タンパクの分解亢進に由来した変化が起こるとされている。

ここまでは、以前のブログで投稿した内容である。

今回は、その筋構成タンパクの分解亢進のメカニズムについてお伝えさせていただくことにする。

筋構成タンパク分解の経路は、大きく分けて以下の3つが存在する(図)。

・ユキビチン・プロテアソーム系:筋特異的RING-Fingerタンパク質(MuRF1)や筋特異的ユキビチン連結酵素(MAFbx/atrogin-1などのユキビチンリガーゼの転写によって起こる。

・オートファジーリソソーム系:Forkhead転写因子(FoxO)によって活性化される。

・アポトーシス:カスパーゼによって引き起こされる細胞死。

図 筋構成タンパクの合成(左)と分解(右)のメカニズム

この筋構成タンパク分解経路のうち、最も有名かつ重要であるのが、ユキビチン・プロテアソーム系である。

すなわち、ユキビチン・プロテアソーム系を惹起する核内でのMuRf1MAFbxなどの筋に特異的なユキビチンリガーゼの転写は、様々な要因を受けるからである。

加齢によってその分泌量が増えると言われているミオスタチンは、アクチビンtype2受容体(ActR2B)と結びつくことで、Smad familyの転写因子を活性化させる。

また、Smadはタンパク質の転写を抑制する作用も併せ持つ。

腫瘍壊死因子(TNF)や炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL16は、それぞれの受容体と結びつき、いずれの受容体も活性化される。

そのため、核因子κBNF-κB)やFoxOの活性化および活性酸素(ROS)が生成される。

アンジオテンシンⅡはアンジオテンシンⅡ受容体(ANG2R)と結合することで、FoxOを活性化させる。糖質コルチコイドは、糖質コルチコイド受容体(GR)と結びつく。

以上のような様々なメカニズムによって、ユキビチンリガーゼの転写が促進され、ユキビチン・プロテアソーム系によって筋タンパク分解を刺激するのである。

ここでもう一つ注目すべきは、筋構成タンパクの合成を促すAktFoxOの間に相互関係が成り立っているとことである。

つまり、低活動や廃用症候群等により、骨格筋に対する刺激が減少しAktが抑制された場合、FoxOは脱リン酸化状態となり、ユキビチンリガーゼの発現を高め、筋構成タンパクの分解が亢進するのである。

したがって、筋構成タンパクの合成においても、分解の抑制においても、いかに活動量を保持しIGF-1を分泌させAktの活性化を図る筋力維持・増強運動(筋力トレーニング、レジスタンストレーニング)が重要であるかが理解できるかと思われる。

本投稿は、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方の臨床において、直接的に役立つ内容でないかもしれない。

しかし、生体の構造における筋萎縮がどのようなメカニズムで進行するのかといった科学的な知識として知っておくことで、臨床の幅が広がるのではないかと考える。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。

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