アイシングを有効活用しよう

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方において、捻挫や打撲、脱臼などの急性外傷をみた場合、まずはアイシング(寒冷療法)を選択すると思われる(脱臼は整復後)。

これは寒冷療法における生体への生理的作用のうち、『循環系への作用』、『代謝系への作用』および『神経系への作用』を考慮して実施するものと考えられる。

寒冷療法には、その他にも『結合織への作用』や『呼吸系への作用』などがある。

これら寒冷療法の生理的作用は、温熱療法のそれと多くの点で逆の作用を持つ。以下には、循環系と代謝系、神経系への作用について詳細に述べていくこととする。

循環系への作用については、体表面を冷却すると組織温度の低下が起こり、血行動態に変化が生じる。

つまり、末梢血管は収縮し、血流量が減少するのである。この組織温度の低下から血管収縮・血流量減少が起こるまでには、いくつかのメカニズムが考えられている。

組織温度が低下することで、ヒスタミンやプロスタグランジンなど血管拡張作用をもつ物質の生成や遊離が減少するため、血管収縮が引き起こされる。また、皮膚冷受容器が刺激されることで、平滑筋が収縮し血管収縮が起こる。

さらに、皮膚受容器の活性化は交感神経性アドレナリン作動性ニューロンの活性化により、冷却部位のみならず離れた領域にも血管収縮が起こる。

これらのメカニズムにより、血流量が低下するのである。

代謝系への作用については、組織温度の低下により、組織の局所的な代謝が低下する(新陳代謝の低下)。

これにより、組織細胞における酸素消費量やエネルギー必要量も低下し、炎症反応を低下させるのである。

神経系への作用については、組織温度の低下により神経の伝導速度が低下する(感覚神経、運動神経とも)。

特に痛覚を司るAδ線維の伝導速度が最も低下することから、痛覚閾値が上がり“痛み”を鈍麻させるのである。

もちろん、その他の感覚(触圧覚や運動覚、位置覚 etc)も低下させる。

また、冷却によって筋紡錘の感受性も低下させることから、一時的な筋緊張亢進に対する低下作用も認められている。

寒冷療法の治療適応としては、①外傷や創傷の急性期、②疼痛の緩和、③異常な筋緊張の緩和などである。

一方で禁忌としては、①開放性外傷、②レイノー現象、③寒冷過敏症(アレルギー)、④抹消血行障害、⑤心疾患・呼吸器疾患、⑥感覚障害、⑦発作性頻脈症、⑧炎症性腎疾患、⑨寒冷グロブリン血症などがある。

また、注意事項として特に留意すべきは凍傷であろう。そのために、治療を実施する前の充分な説明や患者の情報収集、適用中および適用後の患部の観察が重要となる。

また、過冷却に気を付け、冷却時間は30分以内にする。

さらに、場合によっては皮膚温度計で皮膚温を適宜チェックしながら時間や温度を調節することが望ましいと考える。

以上、簡単にではあるが寒冷療法について、その生理学的作用や適応・禁忌・注意事項について述べた。寒冷療法を実施する際には、是非これらの知識を整理した上で患者に対して、安全かつ効果的な方法を行っていただきたい。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。

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