
臨床において、筋力低下を有する患者は、関節可動域制限を有する患者と同等に多くみられる。
特に運動器(整形)疾患患者であれば、そのほとんどに筋力低下が伴っていると言っても過言ではないと思われる。
また、主に高齢患者における筋力低下は、身体活動の低下を引き起こし、さらに身体活動の低下が筋力低下を招くといった悪循環に陥り、日常生活活動(ADL)や生活の質(QOL)の低下、転倒・骨折の原因にもなるということが容易に想像できるであろう。
したがって、我々、理学療法士もそうであるが、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方においても筋力低下を予防することは重要であるといえる。
では、この筋力低下はどのように生じるのであろうか。その原因について述べていく。
筋力低下の原因は、大きく分けると主動作筋と主動作筋以外の要因がある。主動作筋の要因としては、神経学的要因と形態学的要因(筋萎縮)によって引き起こるとされる。
また、主動作筋以外の要因としては、拮抗筋の過剰収縮と固定筋の筋力低下がある(市橋則明編集, 運動療法学, 文光堂)。
以下では、筋力低下の主動作筋の要因について述べていくことにする。
主動作筋の神経学的要因として、大脳の興奮水準の低下がある。それを理解するためには、まず『運動単位(motor unit:MU)』について知っておく必要がある。
運動単位とは、運動を起こす際の基本単位であり、「1つのα運動ニューロンとそれに支配される筋線維群から成り立っているもの」である。
したがって筋収縮の程度は
①活動している運動単位の発射頻度
②活動する運動単位の数
③各運動単位の活動のタイミングの一致(同期化)
によって決定されている。
一般的な組織内における上司と部下の関係で例えると、①は上司の命令、②は部下の数、③は上司の命令に対する部下の働きということになる。
したがって、廃用症候群や加齢によって大脳の興奮水準が低下すると、上記の①~③のいずれか、もしくはいずれにも問題が生じることで筋力低下が起こるのである。
また、主動作筋の形態学的要因というのは、筋萎縮のことである。筋萎縮のメカニズムは『筋細胞の縮小』と『筋線維数の減少』に特徴づけられるが、これについての詳細は別の機会に投稿させていただこうと思う。
しかし、いずれにしても筋萎縮における筋力低下は、「生体の最大筋力は、生理学的筋断面積に比例する」ということから、容易に理解できると思われる。
このように、筋力低下の原因は神経学的要因と形態学的要因に分けて考えるべきである。
本投稿が、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方において、少しでも知識の補助として、身になってくれれば幸いである。
投稿者
井上拓也
・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。